書評(続き1)
緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行
この投稿では、まず2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。本書は同年12月1日に初版発行であるが、当然そこで行われた議論やそのもととなる資料を参照した上で、執筆されている。森重氏の詳しい「反論」はfacebook https://www.facebook.com/people/%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E4%BA%8B%E6%95%85%E5%AF%BE%E7%AD%96%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E4%BC%9A/100077180667206/を参照されたい。本書の内容にもとづく国会質問も同年6月に2回行われているが、東日本大震災震災以前の感覚に逆戻りし「専門家(東電と規制委員会)の言うことを信用しろ」という感じの答弁である。また、原子力村の「専門家」たちは国民を騙そうとしている?!
ここでは2023年の関連する原子力規制委員会の文書(全て委員会のHP https://www.nra.go.jp/ から参照できる)を順に参照しながら、資料内の関連部分を抜粋・引用し、議論の経過の整理を試みる。この作業は、当該HPが複雑さ・整理の悪さゆえに大変わかりにくいものになっていて、門外漢の投稿者(物性物理学者)には結構時間がかかったことを付記しておく。
ここで参照する文書は以下の5つである:
1)原子力規制委員会記者会見録 令和5年5月10日(水)17:00~
2)第12回原子力規制委員会 令和5年05月24日(水)10:30~12:00
議事録【PDF: 357KB】
資料5 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタル及び原子炉補機冷却系の配管の状況を踏まえた今後の対応【PDF: 2.7MB】
(参考1)第107回特定原子力施設監視・評価検討会資料5-1(1号機 原子 炉格納容器内部調査の状況について【東京電力】)からの抜粋
(参考2)第106回特定原子力施設監視・評価検討会資料3-2(東京電力ホー ルディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるPCV の閉じ込め機能の維持に関する論点【原子力規制庁】)
3)第24回原子力規制委員会 令和5年07月26日(水)10:30~12:00 開催
議事録【PDF: 266KB】
資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況【PDF: 2.0MB】
(別紙1)第108回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデ スタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)
4)第37回原子力規制委員会令和5年10月11日(水)10:30~12:00 開催
議事録【PDF: 218KB】
資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(2回目)【PDF: 5.0MB】
(別紙1)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-2(RPV・PCVへ の構造上の影響に係る東京電力の評価と原子力規制庁の見解【原子力規制庁】)一部修正
(別紙2)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)
(別紙3)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-3(1号機ペデス タル損傷状況を踏まえた原子炉建屋への影響確認【原子力規制庁】)
(参考1)東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析の結果を踏まえたこれまでの主な対応状況
全体は長くなるので、本稿ではまず1)2)について資料中の文章を要約して紹介する。
1)原子力規制委員会記者会見録 令和5年5月10日(水)17:00~
本会見録では、約3名の記者から福島第一原発の件について質問が出ている。以下それぞれの質疑の概要(要約)は以下の通りである。
○記者1 最後に委員長のほうから、福島第一原発のペデスタル の大規模損傷の件で、規制庁のほうに指示を出されていたが、改めて、どんなことを東電に要求するか。○山中委員長 ペデスタルの耐震性について、東京電力の評価を待たずに委員会としてどういうようなことを、、要求していくのかということを、、早く東京電力に指示したほうが いいという判断をして、今日、項目をまとめて委員会に上げてほしいという指示をいたしました。 具体的に言いますと、ペデスタルの支持機能が失われた場合に何が起こって、環境に 影響があるのか。あるならば、対策としてどういうことを考えなければならないのか ということを、東京電力に、、考えてほしいと思っています。 それを、それほどゆっくりして議論をしていく必要はないかなというふうに思います、、。
○記者2 、、1F(福島第一原子力発電所)のペデスタルのお話で、、今日の議論、やり取りを見ていますと、ゴールデンウィーク前よりも委員長の中での危機感というか、より具体性を増していて、、より踏み込んだ対応が必要と判断するに至った何かがあったのかなと思ったのですけど、、。○山中委員長 特にございません。 、、きちっと項目を示しあげたほうが、 東京電力も対応しやすいだろうなという、そういう判断でございます。○記者 、、ペデスタルの支持機能が仮に失われた場合に何が起こるのかというところ、これから事務方が検討して示すとは思うのですけど、特にどういった部分をはっきり示してほしいですか。 、、支持機能がなくなった場合に、何が懸念されるのか。○山中委員長 支持機能がなくなった場合、例えば、こういうところが壊れます。環境に 影響があるのですか、ないのですか。ないならば全く問題ないですし、あるならば、 どんな対策が可能ですか。そういうところまで、きちっと東京電力には検討してほしいというところでございます。○山中委員長 ものすごく詳細な耐震評価をする、そういう必要はないというふうに思っておりますし、、どこまで、例えばコンクリートの劣化が進んでいるかということも不明なので、まずは機能が失われた場合に、どういうところがこの程度壊れて、それでも環境に影響があるのか、ないのか。あるならばこんな対策は可能です、 そこまで示してほしいということです。
○記者3 、、定例会で2回続けて同じ趣旨のことを言われたということで、これは、全体として土台損傷についての対応の遅さみたいのを感じられているのですか、、。○山中委員長 この前の話題の出し方というのが具体的ではなかったかなという自分でも 反省がありますし、より具体的な提案を東京電力側にしたほうがいいかなということで、、ペデスタルの機能が喪失した場合に何が起こって、どういう影響があって、あるいは、影響があるなら、どういう対策 が考えられるのかということを検討してほしいという、そういう思いでございます。○記者 、、この東電の対応のスピードというか、それに ついては現状どう思われているのですか。○山中委員長 恐らく、ものすごく厳密な耐震評価をしようとして時間がかかっている。 そういう意味で、早く対応してほしいというのが私の気持ちです。そんな厳密な評価 をするにしたって、何が起こっているか分からないのに、そういう意味はないでしょうと。○記者 格納容器の近くには使用済のプールもあったり、あそこが傷つくと、かなりすごくリスクが高いと思うのですけども、格納容器外の建屋への影響というのは、仮定で 恐縮ですけど、どう思われますか。○山中委員長 そこまでは、今のところ考えておりません。
これらの質疑からわかるのは、山中委員長は、原子炉底部崩壊の東京電力の報告を受け、なるべく早く、ペデスタル支持機構崩壊の影響と対策を出せ、と指示したいようである。当然、厳密な議論は無理と考えていると思われるが。但し、これらの論点に関する回答は、既に4月14日の第107回特定原子力施設監視・評価検討会でなされているが。
2)第12回原子力規制委員会 令和5年05月24日(水)10:30~12:00
議事録【PDF: 357KB】
資料5 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタル及び原子炉補機冷却系の配管の状況を踏まえた今後の対応【PDF: 2.7MB】
経緯
令和5(2023)年3月
東京電力が令和5年3月に実施した1号機原子炉格納容器の内部調査において、ペデスタル内全周でコンクリートの損傷が確認された
令和5 年4月14日の第107回特定原子力施設監視・評価検討会
東京電力から、今後耐震評価を行うことのほか、ペデスタルが座屈した場合でも格納容器貫通部は損傷しないとする報告を受けた(参考1)。それに対し、原子力規制庁からは、ペデスタルの耐震評価はその前提条件の妥当性の判断が困難であることから、ペデスタルの支持機能喪失による影響の考察を確認することとしている。
また、1号機原子炉補機冷却系(RCW)を通じた原子炉格納容器からの放射性物質の漏えいについては、(中略)原子力規制庁の調査で、原子炉建屋内のRCWサージタンク及びその床 面で高線量部位が認められたことなどから、
令和5年4月24日の第37回事故分析検討会
格納容器内の放射性物質の移行経路として特定した(参考3)とされている。
参考資料:
(参考1)第107回特定原子力施設監視・評価検討会資料5-1(1号機 原子 炉格納容器内部調査の状況について【東京電力】)からの抜粋

ペデスタル開口部から撮影した映像のパノラマ画像:格納容器底部付近のペデスタルや鉄筋の損傷の様子が良く解る。

ペデスタルの支持機能喪失時の影響考察:次の3点について記述がある。a) 上部構造物(RPV/PSW (BSW?)他)の挙動、b)上部構造物沈下の考察、c) 閉じ込め機能への影響。以降の頁に詳しい説明がある。

1号機の構造物配置概要。RPV; Reactor Pressure Vessel、原子炉圧力容器。BSW; Bio-shielding Wall、生体遮蔽壁
資料の続く4頁にもあるように、上記a)b)c)の各点についての見解は以下のようで、「基本的に大きな問題は無い」というものである。
- 上部構造物の挙動:地震時挙動を想定する観点から、、水平方向は周辺構造部材による移動制限が可能であり、倒壊等に至らない。垂直方向の沈下は、周辺構造部材で支持できず基礎が損失した分、上部構造物が沈下可能性あり。
- 上部構造物沈下の考察:(以下の議論は仮定・推測が多いと感じられるが)これまでの地震に対し、ペデスタルの支持機能は維持されていると想定すると、鉄筋の露出長さ(1.3 m)を考慮すると損傷の形態としてはまず座屈が発生する。インナースカートにも有意な変形は確認されていないことなどから、沈下量は0.3 m程度に留まる。
- 閉じ込め機能への影響:上部構造物が沈下した際の閉じ込め機能に影響を及ぼす個所として,上部構造物接続配管接合部(PCVペネトレーション(以下,ペネ))を選定し影響評価。ペネ部に発生する応 力は許容応力を下回り,閉じ込め機能の喪失には至らない見込み、である。また、【ダスト飛散の影響】 については、RPV等の傾斜・沈下が生じても、周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えることはないと考察する、としている。これに関しては、以下の資料も提出されているが、かなり専門的なのでここでは省略する。
(参考2)第106回特定原子力施設監視・評価検討会資料3-2(東京電力ホー ルディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるPCV の閉じ込め機能の維持に関する論点【原子力規制庁】)
これについては次のような記述がある: 東京電力が負圧化への課題としている3点に関し、以下の具体的な論点について 特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合において議論を行う。東京電力には、当該議論を踏まえ、2023年度中に格納容器内部の閉じ込め機能維持方針を策定することを求める。
「水素爆発⇒可燃限界を超えない管理が必要」
- PCV を負圧化した場合の水素・酸素の流入量の評価と流入に伴う水素爆発リスク
- 今後予定しているS/C水位低下によって水封が解かれ、S/Cに接続してい る配管から水素を含む気体が逆流する可能性
- 空気の流量管理を含めたPCVの試験的負圧化の計画策定
「PCV腐食の加速:構造健全性(耐震強度等)への影響」
- 負圧化した場合の酸素流入量と流量管理から想定されるPCV内の酸素濃度
- 酸素濃度に伴うPCV及びRPVを支持する鋼材その他安全を確保する上で必要な鋼材の腐食進展評価
- それらの鋼材の強度に対する具体的な影響評価
「デブリ等の性状変化リスク:酸化による微粒子化」
- 負圧化した場合の酸素流入量と流量管理から想定されるPCV内の酸素濃度
- 酸素濃度に伴うデブリの酸化進展評価
- デブリの酸化による廃炉作業への影響