書評 「ALPS水・海洋排水の12のウソ」烏賀陽弘道 著 2023年11月4日 第1版第一刷 三和書籍
(1)はじめに
2023年8月24日 いわゆる「ALPS処理水」の海洋放出始まる!
以下、福テレの記事(https://www.fukushima-tv.co.jp/localnews/2025/04/2025040200000005.html)より引用して、最近の「ALPS処理水」海洋放出をとりまく状況をまとめてみる:
*2025年3月30日に通算11回目、2024年度最後となる処理水の海洋放出が完了し、これまでに合わせて約8万6000t(タンク約86基分)の処理水(政府用語)が薄められて海に放出された。
*2025年2月からは、放出によってカラになった溶接型タンクの解体も始まっていて、まずは12基を2025年度中に解体する見込み。空いたスペースには燃料デブリの取り出しに関する施設を建設する計画。
*2025年3月26日現在 約600件・570億円の賠償支払いを完了したと公表(東京電力)。ホタテやナマコを中心に、中国が日本産海産物の禁輸措置をとっていることによる取引中止の損害が多くを占める。
*2022年9月から”通常の海水”と”海水で希釈した処理水”、さらに放出が始まってから”実際に放出された処理水”を使って、ヒラメやアワビ、海藻などの飼育試験を行ってきたが「生体内でトリチウムは濃縮されない」などの結論が得られたとして、2025年3月31日で試験を終了。
国と東京電力が掲げる廃炉の完了は2051年。タンク内のトリチウムがゼロになるのも2051年と計画されている。
実は本ブログでは、過去に2回「トリチウム水」の海洋放出について、解説と警告を試みている。
トリチウム水問題について―(1)トリチウム自体の健康影響―
(参考文献:「DNAに取り込まれるトリチウムとその健康影響」河田昌東DAYS JAPAN 2018年11月号)
記事(1)では、トリチウムの特異性として、通常安全性の根拠として主張されている「放出するベータ線エネルギーが極めて小さい(紙一枚で遮蔽可)」、「体内に入っても普通の水と交換して短期間で体外に出ていく」の他に隠されているもの―有機結合性トリチウム(OBT, organic Bound Tritium)―があることを指摘し、それが体内で生成されたとき、長期間の内部被ばくやDNAの破壊をもたらす恐れがあり、実際にトリチウム汚染の健康影響例と思われるケースがイギリスやカナダで確認されていることに触れている。なお、多核種汚染の影響については言及出来ていない。
トリチウム水問題について―(2) 海流に乗るトリチウム汚染水―
(参考文献:「海流に乗るトリチウム汚染水 東京近郊の太平洋沿岸まで汚染の可能性」ティム・ディアジョーンズ(英国の海洋汚染研究者・コンサルタント)DAYS JAPAN 2018年11月号)
記事(2)では、約92万トンの液体放射性廃棄物の海洋放出を強行・継続しつつある政府、原子力規制委員会、東京電力、IAEA(国際原子力機関)のその安全性の根拠としている、生態系への影響の過小評価仮説「汚染水は無限に希釈され、沿岸の住民や海洋利用者に何ら脅威を与えない(食物連鎖、生物濃縮無し)に対し、これを否定する原子力産業の影響下に無い独立した研究者たちによる新たな実証的な研究結果を紹介し、上記「過小評価仮説」の不十分性や誤りを指摘している。
特に生物体内で生成されるOBTを媒介することにより、食物連鎖による生体濃縮が無視できない大きさになる可能性が考えられる他、長い本州太平洋側沿岸における有機物排水と混ざることにより、さらに大量のOBTが生成され、これらは沿岸地域での汚染食材、波しぶき・水蒸気・高潮、呼吸を介した被爆に繋がる。これはやがて海流に乗って、太平洋のカナダ・アメリカ対岸に達する―即ち汚染水放出は世界的に注目されるべきであり、各地での調査が不可欠である、ことなどを述べている。