書評の続き3:緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評(続き3)

緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、前投稿 書評(続き1、2)に加筆し、2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。以下で参照して内容を検討する原子力規制委員会関連の資料リストを再掲する:

4)第37回原子力規制委員会令和5年10月11日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 218KB】

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(2回目)【PDF: 5.0MB】

 この会議では、前回までに結果の報告があった、早急な対応を求めた指示事項(1)及び(2)以外の指示事項(3)について、「東京電力の検討状況を聴取し、10 月5日の第109回特定原子力施設監視・評価検討会において東京電力の評価 結果と以下に示す原子力規制庁の見解を共有した」としている。その中身は主に以下の2点である:

① 圧力容器、格納容器への構造上の影響評価に対する原子力規制庁の見解

東京電力が示した圧力容器、格納容器への構造上の影響評価の概要及びそれに対する原子力規制庁の見解詳細は別紙1(下に掲載=投稿者)のとおり(東京電力の評価詳細については別紙2(下に引用=投稿者)参照)。原子力規制庁は、1号機原子炉建屋内及び格納容器内が 高線量であるため事故後の実態を詳細に調査することは困難であり、評価の前提や入力値を仮定に基づいて設定せざるを得ないことから、事故後の実態を反映した評価を実施することには現時点で限界があることを認識し、仮定に基づいた評価の妥当性を確認することは困難であると判断した。なお、東京電力に対しては、評価に用いている不確かさを含むパラメータに ついて、今後の調査や解析によって反映できる情報が特定された場合には、再評価していくことを求める。

② 環境への影響に関する原子力規制庁の見解

上記のとおり圧力容器、格納容器への構造上の影響評価の妥当性を確認することは困難であるところ、原子力規制庁は、ペデスタルの損傷により圧力容器が転倒するという極端な仮定による原子炉建屋への影響についても確認を行った。具体的には、圧力容器、原子炉遮へい壁、格納容器が一体となって原子炉建屋へと転倒し、水平荷重の伝達もしくは原子炉建屋への直接の衝突が起きるという極端な想定においても、原子炉建屋全体としての構造健全性は十分に維持されることを確認した(別紙2の参考、別紙3参照(両方とも下に引用=投稿者))。(中略)また、原子炉建屋に存在する主なリスク源を網羅するため、使用済燃料についても考察した結果、上記のとおり極端な仮定においても使用済燃料プールを 含む原子炉建屋の構造健全性は維持されることから、使用済燃料が外的損傷を受けることや使用済燃料プールから水が抜けることは考えられず、使用済燃料 による環境への影響はないと考えられる。 (中略)東京電力は1号機使用済燃料プー ルの水抜け時の温度評価と敷地境界での線量評価も示しており(別紙2の参考 参照)、原子力規制庁は、水抜け時も温度上昇は限定的であるため使用済燃料は破損せず、また水抜けによる敷地境界への線量影響は限定的である※ことを確認した。 ※東京電力による、水抜けした使用済燃料プールからの直接線・スカイシャイン線 による敷地境界での線量評価結果は、0.53μSv/h。

また今後の予定として、

事故分析・調査等による新たな知見を注視し、構造上の影響評価に 用いている不確かさを含むパラメータへの新知見の反映等を必要に応じて確認していくとともに、原子炉建屋の剛性の変化を監視するために有用と考えられる1号機原子炉建屋上部への地震計の設置について、早期の実現に向けて東京電力を指導・監視していく、としている。最後にこれらの論点とそれらへの対応結果は別紙3の最後に付けられた表(参考1=以下に掲載)にまとめられている。

 以上の詳細な議論には、理系でも専門外の投稿者にはなかなか追跡・理解するのは大変であるが、果たして妥当な議論はなされているのであろうか?

 参考資料

(別紙1)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-2(RPV・PCVへ の構造上の影響に係る東京電力の評価と原子力規制庁の見解【原子 力規制庁】)一部修正

(別紙2)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)

補足説明資料

【参考】圧力容器倒壊における原子炉建屋への影響評価および 使用済燃料プール水位低下した際の影響評価について

1.PCVに接触した際の原子炉建屋への影響評価

2.使用済燃料プールが損傷,プール水位が低下した際の 敷地境界線量率および原子炉建屋周辺線量率への影響評価(資料は以下の頁から8ページに渡る)

 (別紙3)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-3(1号機ペデスタル損傷状況を踏まえた原子炉建屋への影響確認【原子力規制庁】)別紙3.pdf

(参考1)東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析の結果を踏まえたこれまでの主な対応状況

書評の続き2:緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評の続き2:緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、前投稿 書評(続き1)に加筆し、2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。

  まず、参照して内容を検討する原子力規制委員会関連の資料リストを再掲する:

3)第24回原子力規制委員会 令和5年07月26日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 266KB

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況【PDF: 2.0MB

 この会合の主な目的は「本年5月24日の第12回原子力規制委員会での原子力規制庁への指示に対する対応の状況について報告する」ことであるとされ、経緯の中で、5月24日に原子力規制庁から東京電力に伝達された以下の3つの対応方針が再掲されている:

(1)格納容器に開口部ができるという 前提に立って環境に放射性物質が放出されるのか影響を評価し、

(2)環境に 影響があるという前提で対策を検討すること。並行して、

(3)ペデスタルの 機能が喪失したとして、圧力容器、格納容器に構造上の影響がないかどうかを 検討すること

 この内(1)(2)については、6月5日に開催された技術会合(第10回特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合、以下「1F技術会合」)で議論され、その結果について7月24日の第108回特定原子力施設監視・評価検討会(以下「監視・評価検討会」という。)において共有されたと説明があり、その中身として次のような要約がある:

(1)放射性物質の放出による影響の評価 ペデスタルの支持機能喪失によって格納容器に大きな開口が生じ、それに 伴って圧力容器の外表面汚染物、もしくは圧力容器内のデブリが飛散するケースを想定した場合においても、事象に伴って発生する放射性物質の飛散による敷地境界における実効線量は最大で 0.04mSv にとどまり、通常の実用発 電用原子炉の安全評価における事故時の基準である5mSvを大きく下回る。

(2)、、放射性物質の放出を抑制するために有効な対策は、格納容器への窒素封入を停止し放射性物質の押し出しを抑制することである。しかしながら、ペデスタルの支持機能低下及び開口の有無を直接検知することは困難であるため、あらかじめ、窒素封入を停止する手順を実施 計画に基づく運転管理に関する文書に定め、今後それに基づき対応を行う。具体的には、震度6弱以上の地震が発生した場合、もしくは格納容器内のダスト 濃度が上昇した場合には窒素封入を停止する。その後、格納容器内のダスト濃 度が事象発生前と同等であることを確認できた場合窒素封入を再開することとする。

対応する別紙2,3頁を下記に示す:

 上記文章、及び資料もイマイチ解りにくいので、上掲議事録の中にある2つの発言を引用しておく:

○伴委員 質問というか、補足ですけれども、結局、開口部が生じたとしても、ダストの発生はあるものの、そもそも内部は高温・高圧ではないので、それを放出する動力源がないと。唯 一あるのは、窒素雰囲気にするために窒素の封入をしていますから、だから、それを止めてしまえば、もう本当に押し出す力がなくなりますので、それが一番確実な方法であると。 更に、窒素封入を停止したところで水素濃度が急激に上昇するようなことはなくて、東電の評価だと少なくとも数か月以上の余裕はあるということですので、その間に状況を確認 した上で、窒素封入を再開すればいいという合理的な考え方だと思っています。

○山中委員長 追加で、私が推測するのも妙な話ですけれども、東京電力の解析というのは、(1)と (2)、これを両方合わせてですけれども、ものすごく大きな穴が開こうが、ある一定の穴が開こうが、あるところを超えると、その放出量はほとんど変わらないよという、そう いう評価だと。つまり、差圧が立たなくなったら物は外に出ませんよという。だから、仮 にものすごく大きな穴が開いても、差圧が立たなくなるので、ダストは外に出ませんという、そういうモデルですよね。なので、(3)の結果がどうなろうとも(1)(2)は有効な結果であるという、そういう解釈をしておけばいいということですね。

 「定常状態?が保たれれば、まあ最悪の事態にはならないだろう」という、若干心許ない結論の気がするが、、、。その詳しい説明は次の別紙1に記述されているが、かなり専門的なのでここでは詳細には踏み込まない。

(別紙1)第108回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1