海外における最近のヨウ素剤配布

1.ロシアの爆発の正体は?原子力巡航ミサイル「ブレヴェスニク」の可能性も

海外メディアでも報道されたが、ほぼ2ヶ月前の8月8日、ロシアでミサイルの爆発事故が発生したらしい。

https://newsphere.jp/national/20190814-2

上記記事によれば、ロシアの国営原子力会社ロスアトムの職員5名が死亡したほか、3名が負傷。付近の放射線レベルはおよそ1時間にわたって上昇し、ヨウ素剤を求める市民で付近の街は一時騒然としたという。

【何があったのか?】(地図1,2)

詳細は以下のようであったらしい:事故が起きたのは北極圏にあるネノクサ(Nenoksa)に近い海上軍事演習場。実験に関与していたロスアトムの責任者によると、ミサイル試験の完了後に突如として炎が上がり、エンジンが爆発したという。これにより技師達が海に投げ出され5名が死亡したほか、爆風を受けた3名が負傷している。

現場から約40 km東にあるセベロドビンスク(人口19万人)市内では事故後40分間にわたって放射線量の上昇が確認され、一時2マイクロシーベルト/時(その後0.11に低下)の数値を記録。線量上昇の情報が市内に知れ渡ると、街は一時パニック状態になり、ヨウ素剤を求める人々が薬局に殺到したという(下記New York Times記事)。

https://www.nytimes.com/2019/08/12/opinion/russia-explosion-nenoksa.html

セベロドビンスクとモスクワの位置関係

地図1 セベロドビンスクとモスクワの位置関係

ネノクサ(セベロドビンスク西方約30 km)

地図2 爆発があったネノクサ(セベロドビンスク西方約30 km)

【ロシア政府の無責任な対応】

当初ロシア政府は液体燃料ロケットの爆発だと発表していたが、ロケットの動力源に放射性同位元素を用いていることを事故から二日経って認めた。ロシア政府のずさんな対応に、欧米メディアは不信感を露わにしている。上記NYTの記事は「チェルノブイリでの原発事故の際と同様、あたかも深刻な事態が起きていないかのように当局は情報統制を行った」と伝えている。今回は一般市民の生命に危害は及ばなかったが、「ロシア政府は国民と世界に事実とリスクの大きさを説明するよりも、保身に興味があることが改めて証明された」とも糾弾している。実際、セベロドビンスク市の公式サイトは放射線量の情報を伝えていたが、不可解なことにこの情報は現在同サイトから削除されているらしい。

ブルームバーグ

https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2019-08-12/russia-s-missile-explosion-means-it-failed-two-tests

はこうした動きを報じ、「(事故に)続くロシア政府の曖昧で断片的な説明から明らかなように、原子力事故の真実を世界あるいは自国民に伝えることを同政府には期待できない」と対応の稚拙さを糾弾している。またブルームバーグはミサイルの動力源として、原子力電池の一種である「放射性同位体熱電変換器(RGT)」が使用されていた可能性を指摘しているが、RGTでなく小型の原子炉が試験されていた可能性もありうると述べている。ロスアトムが発表している動画によると、動力源を説明する例として米NASAが手がけるキロパワー計画に言及している。これらから、欧米の識者の一部、あるいは米政府関係者の間にも今回の爆発事故は、小型原子炉を搭載する原子力巡航ミサイルだった可能性が高いという認識が広がっている。もっともBBC

https://www.bbc.com/news/world-europe-49319160

によればプーチンやロスアトムの宣伝にもかかわらず、計画は長年にわたり失敗続きであると指摘している。

ここでわれわれが気になるのは、(小型)原子炉を動力源とする艦船は、世界中の海軍などに多数保有されていることである。米軍の原子力空母は頻繁に日本に寄港しているし、ロシア、中国、米国の原子力潜水艦も日本近海に常に多数航行している。これらの艦船が何らかの事故や操作ミス等で爆発、沈没する可能性は常にある。例えば、空母が帰港する横須賀や佐世保の住民に安定ヨウ素剤を配布しておく必要は本当に無いのであろうか?

 

2.フランス、原発周辺住民220万人に安定ヨウ素剤配布、放射能漏出に備え

AFP(9月18日)によれば、フランス国内の原子力発電所19カ所の周辺に住む220万人に対して、放射能事故が起きた場合に服用するための安定ヨウ素剤が近日中に配布されるということである。フランス原子力安全局(ASN)が17日に明らかにした。

 ASN6各原発の避難区域を2016年に定められた半径10キロから20キロに拡大これに伴い16年時点で安定ヨ素剤が配布されていた375000世帯に加え今回さらに220万人に追加配布される薬局でヨウ素剤を受け取ることが出来る証明書が、数日内に原発付近の住民に発送される。

https://www.afpbb.com/articles/-/3245100?cx_part=search

3.米TVドラマ「チェルノブイリ」で人気上昇、リトアニアの閉鎖原発ツアー

【イグナリナ原発】

9月1日のAFPの記事

https://www.afpbb.com/articles/-/3240859?pid=21548397&page=1

によれば、リトアニア東部にあるイグナリナ(Ignalina)原子力発電所で3時間に及ぶツアーに参加していた米国人男性は、廃炉となった原子炉の屋根を歩きながら、「全然怖くない」と話したと言う。

このTVドラマに関しては、次の記事が参照できる。

https://www.cinematoday.jp/page/A0006858

https://www.cinematoday.jp/news/N0111235

https://www.cinematoday.jp/news/N0110849

全編を日本で視聴できる日も近い?ようであるが、私はまだ見ていないが。

イグナリナ原発はチェルノブイリ(Chernobyl)原発と設計が類似しており、昨年はベーケーブルテレビ局HBOの人気ドラマ「チェルノブイリ」の屋外シーンがここで撮影された。旧ソ連時代に造られた同原発は以前から一般公開されていたが、5月のドラマ放映開始以降は観光客が急増。観光客は、白いつなぎを身に着け、原子炉の屋根を歩いたり、ドラマに似せてつくられた指令室など様々な設備を見学したりする。7月の来場者数は900人(多くは国内観光客だがポーランド、ラトビア、英国からの観光客も含まれる)に及び、年内のツアー予約は「ほぼ埋まっている」らしい。

【ダークツーリズム】

ウクライナ同様、旧ソ連の一部だったリトアニアは2009年12月、チェルノブイリ原発と同じ形式の原子炉2基を擁していたイグナリナ原発の廃炉に向けた作業を開始した。2004年に欧州連合(EU)に加盟する際、リトアニアは交換条件としてイグナリナ原発の閉鎖を求められていたからである。

ドラマ「チェルノブイリ」のロケ地となったリトアニアの他の町でもツアーが行われるようになった。首都ビリニュス北部のある町は、チェルノブイリ原発事故後に立ち入り禁止となった人口約5万人の町、プリピャチ(Pripyat)という設定で撮影に使われた。地元のある若者は、祖父が所有する旧ソ連時代のアパートを改装し、民泊仲介サイト「エアビーアンドビー(Airbnb)」に登録したという。

【隣の原発に対する不安】

だが、ドラマ「チェルノブイリ」は、リトアニア人たちの好奇心とプライドをかき立てただけではなく、隣国ベラルーシに建設された新たな原発に対する不安も増大させたようである。ロシア国営エネルギー企業ロスアトム(Rosatom)が主導するこの原発には、発電容量1200メガワットの原子炉2基が設置されており、年内に稼働を開始する予定だ。リトアニア政府は、国境から20キロしか離れていないベラルーシ北西部オストロベツ(アストラヴェツ)(Ostrovets)にあるこの原発について、安全基準を満たしていないと主張しているが、ベラルーシ政府はそれを一蹴している。

リトアニアの芸術学校で働く27歳の女性は「チェルノブイリのドラマの影響は大きい。友人とこの問題(原発の危険性)について話し合っている」と述べた。リトアニア当局は最悪の事態に備えている。同国内務省によると、特定の放射線被ばくを回避できるヨウ素剤を備蓄している他、避難経路の確保や緊急警報の訓練などを行っているという。

下の地図3, 4を見てみると、ビリニュスーオストロベツ間は、約40 km離れているが、その距離は電源開発の大間原子力建設所と函館市との距離とほぼ同じである(地図5)。函館市の市民が不安を感じるのはごく当然のことであり、裁判を進めるのと並行して、ヨウ素在配布や避難訓練の準備が必要になってきていると思われる。

地図3 リトアニアの首都ビルニュスとベラルーシのアストラヴェツ

地図4 ビルニュスとアストラヴェツ(国境を挟んで約30 km)

地図5 大間原子力建設所と函館市(縮尺は地図4と同じ。約30 km?)

ヨウ素剤配布ー各地の状況

福井県の状況

(1) 県内の原子力発電所

県内に5カ所の原発

敦賀市・美浜町(嶺南東部):日本原電敦賀発電所、もんじゅ、関電美浜発電所

大井町・高浜町(嶺南西部):関電大飯、高浜発電所

5 km圏(PAZ)、30 km圏(UPZ)内の配布対象者数(2018/10/1現在)

PAZ 5市町(高浜町、大飯町、小浜市、美浜町、敦賀市):約1万人(内8割が高浜町)

UPZ 上記5市町+7市町(若狭町、南越前町、南若桜町、越前市、鯖江市、福井市):32.8万人

(2) 事前配布説明会

  • 2014~18年(平成26~30年)に年19回から44回、述べ124回(但し土日祝日、平日夜開催)
  • この他、月1回、県健康福祉センター及び若狭高浜病院において定例配布説明会
  • 配布率 (問診数/対象者数)は、61.9~80.9 %
  • 2016.11月~ ゼリー剤配布開始(3歳未満)。また、2017.8.5~ ヨウ素剤更新説明会(3年毎)開始
  • 開催準備:5 km圏内に会場設置(公民館等)。住民に説明会の案内と問診票送付
  • 人員体制:通常20名程度 医師1名、薬剤師 1~2名、保健師3~6名、事務員10名程度。

会場での作業の流れ:1 受付、2 ヨウ素剤の効果等について説明(DVD活用)、3 問診(保健師→薬剤師→医師) 4 安定ヨウ素剤の配布⇒一人30分程度

(3) 説明会現場の様子と課題

課題:事前の新規・更新・年齢別の配布資料の送付が煩雑。住民に取って説明会参加が負担。要員(医師、薬剤師)の手当が大変。

(4) 安定ヨウ素剤の備蓄状況と(30 km圏内への)緊急配布

備蓄場所および備蓄量

  •   UPZ圏内住民(12市町約338,000人)への安定ヨウ素剤の緊急配布に備え、保健所、市役所・役場、公民館等の計53か所に備蓄
  •   備蓄量 丸剤192万丸、ゼリー剤3万200包

緊急配布方法

  • 県および関係市町職員が、備蓄場所から一時集合場所等に設置する緊急配布場所に安定ヨウ素剤を搬出の上、避難住民に順次配布
  • 緊急配布場所 12市町114か所

安定ヨウ素剤の問診票券受領書(福井県)

鹿児島県の状況

(1) 経緯

  • 2013年6月 原子力規制庁は、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、 安定ヨウ素剤を事前配布する方針へ

・ 2014年6月 鹿児島県は全国で初めて事前配布を実施

・ 2018年までの5年間で、計38回住民説明会を開催(2018年12月末現在)

・ 2018年6月時点で、事前配布率は 約7割

  • 鹿児島県におけるPAZ圏内の安定ヨウ素剤配布実績(2018.6.17時点) 対象人数 4,197人
  • 配布者数 2,879人(68.6%) 受診勧奨,不配布(医師判断) 23人 受取辞退 268人 問診票未確認者数(配布説明会未参加者数) 1,027人

(2) 川内原発の5 km、30km圏

(3) 住民説明会の現状(5 km圏内)

鹿児島県と薩摩川内市の共催により実施

平成30年度の開催実績

  • 開催回数: 上半期2回下半期は更新配布会と併せて7回、計9回説明会開催( 休日中心)。
  • 開催1回に必要な人材: スタッフ数は20人以上(自治体職員)。 専門職は医師1~2人、薬剤師10人以上、保健師は5人以上。
  • 医師は、川内市医師会が派遣。

問題点

  • 休日にスタッフを集めるのは容易ではなく、現状としては、川内市医師会でも役員が 交代で対応。
  • 台風の多い鹿児島県では、警戒警報のため開催中止(延期)を迫られることもある。

(4) まとめ

1.鹿児島県は全国で初めて事前配布を実施した県

試行錯誤を重ねながら、2014年6月から2018年まで計38回住民説明会を開催。

2.住民説明会方式は、住民にとっても運営側にとっても限界あり

☑住民がヨウ素剤を受け取る機会は説明会開催日に限られる

☑台風など天候に左右され開催延期になる不安定さ

☑スタッフ確保等の運営上の負担は多大 など

3.住民説明会での医師の役割が不明確。かかりつけ医の活用も。

4.事前配布の方法を簡素化する方向で見直しを。

ひたちなか市の状況

ひたちなか市は今年(2019年)2月、「原子力災害に備えたひたちなか市広域避難計画に係る 基本方針について」を策定・公開している。

ひたちなか市 広域避難計画に係る基本方針

その中のヨウ素剤配布に関する3ページのみを抜き出して下記に掲載する。緊急配布の際多くの困難が予測されるとして、30 km圏でもヨウ素剤の事前配布を行っていることが特徴である。

 

 

 

 

安定ヨウ素剤配布に関する 2019年7月の国の指針改正について

ここではまず新聞記事を3つ見ておく。

ヨウ素剤の配布指針改正 規制委員会、子供や妊婦優先

(新聞記事1)2019/7/4日本経済新聞聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46921700T00C19A7CR8000

  • 原子力規制委員会は3日の定例会合で、原発事故の際に甲状腺被曝を防ぐ安定ヨウ素剤の事前配布について、原子力災害対策指針と配布マニュアルの改正案を正式決定した。5月の会合で了承済み(改正案がまとまり)、意見公募を行っていた。
  • 現在は原発の半径5キロ圏の全住民を中心に自治体が事前配布。対象者を原則40歳未満とし、服用は被曝の影響が懸念される子供や妊婦らを優先すべきだとした。
  • 40歳以上でも妊婦や授乳中の女性も事前配布対象とする。住民の不安に配慮し、供給量が十分なら希望者にも配布しても良いとした。
  • 配布方法は、従来は医師立ち会いの説明会で受け取る必要があったが、改正後は、説明会に参加できなくても薬局で受け取ることもできるようになる。
  • この改正にあたり、世界保健機関(WHO)2017年指針;40歳以上への投与は「有益性が低くなる」としていることも参考にしている。

安定ヨウ素剤 5キロ圏配布開始 県、40歳未満と希望者

(新聞記事2)茨城新聞クロスアイ

https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15631156265628

  • (茨城)県は14日、東海第2原発(東海村白方)の過酷事故に備えた安定ヨウ素剤の今年度の事前配布会を始めた。国の指針改正に伴い、原則40歳未満。
  • 40歳以上でも妊婦や授乳婦、配布日時点で妊娠希望のある女性のほか受け取りを希望する全住民にも配布。
  • また、5キロ圏内の住民で、▽昨年度の配布会に不参加▽昨年12月以降に転入・出生▽安定ヨウ素剤内服ゼリーの更新が必要、に該当する希望者にも配布。
  • 本年度の対象者は約3万4千人。8月末までに計7回開催。東海村で7/14、8/3, 22, 31日の4日間、日立市で 7/24, 8/4, 25日の3日間。来年1、2月に追加配布会開催。

東海第2 再稼働反対60.8% 世論調査  県民、依然慎重

(新聞記事3)茨城新聞クロスアイ

https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15638847967040

  • 県内有権者を対象にした世論調査(RDDで1009/1269)ー再稼働に「反対」60.8 %、「賛成」22.7 %、「わからない・無回答」16.5 %。再稼働に関する理解は広がっていない。
  • 東日本大震災後に実施した過去の調査:2012年衆院選から国政選挙に合わせて実施。「反対」の推移;63.5 %(2012年)、59.5 %(13)、57.6 %(14)、55.0 %(16)、64.4 %(17)。いずれも5割を上回る。
  • 男女別:反対;女性の62.3 %、男性の59.4 %。賛成;女性の18.0 %、男性の27.5 %。
  • 支持政党別:反対;立件民主支持者の82.1 %。社民91.2 %、自民(新規制基準に適合した原発の再稼働を容認)57.3 %、維新63.8 %、公明62.5 %、国民民主57.0 %、共産51.0 %、無党派層56.9 %(賛成17.4 %)。
  • 東海第2原発は昨年11月、原子力規制委員会の新規制基準審査合格や運転延長許可を得て、38年まで最長20年の運転延長が認められた。原電は今年2月、再稼働を目指す考えを表明し、審査に基づく安全対策工事の21年3月までの完了を予定している。
  • 半径30キロ圏内の人口は全国の原発で最多の94万人。30キロ圏内の自治体(14)は避難計画の策定が義務付けられているが、策定済みは笠間、常陸太田、常陸大宮の3市のみと難航している。原電は18年3月、東海村のほか周辺5市にも「実質的な事前了解権」を認める全国初の協定を締結し、再稼働に向けた地元同意のハードルは高くなっている。

次にヨウ素剤と配布圏について確認しておく(用語解説1-3)

安定ヨウ素剤(放射線障害予防薬として)(1)

(用語解説1)https://ja.wikipedia.org/wiki/ヨウ素剤

  • 概要

 放射性でない安定ヨウ素を甲状腺に取り込んでおくことにより、放射性ヨウ素を甲状腺に蓄積されにくくし、被曝によって発生する小児甲状腺がんを減らす効果が期待できる。18歳未満の者に対し特に効果があるが、40歳以上には有為な効果が期待できない。ヨウ素以外の放射性物質に対しては効果が無く、ヨウ素を飲んだからと言って防護や除染を怠ってはいけない。

  • ヨウ素の種類:

安定ヨウ素127(127I) 自然界でほぼ100 %。放射性ヨウ素131(131I) 半減期は8.1日。β崩壊することで内部被曝。

  • 甲状腺とヨウ素:

動物の甲状腺は甲状腺ホルモンを合成する際に原料としてヨウ素を蓄積する。原子力災害等により放射性ヨウ素を吸入した場合には、気管支や肺または咽頭部を経て消化管から体内に吸収され、24時間以内にその10-30 %程度が有機化された形で甲状腺に蓄積される。

それゆえ「安定ヨウ素剤」を予防的に内服して甲状腺内のヨウ素を安定同位体で満たしておくと、以後のヨウ素の取り組みが阻害されることで放射線障害の予防が可能になる。

この効果は服用から1日程度持続し、後から取り込まれた「過剰な」ヨウ素は速やかに尿中に排泄される。放射性ヨウ素の吸入後でも8時間以内なら約40 %、24時間以内なら7 %程度の取り込み阻害効果が認められるとされる。

安定ヨウ素剤(放射線障害予防薬として)(2)

(用語解説2)https://ja.wikipedia.org/wiki/ヨウ素剤

ヨウ素剤の事前配布

原子力災害の発生後では、現場の混乱やインフラの寸断によってヨウ素剤の配布が困難であったり、優先的に飲ませるべき者、飲んだ方が良い者、飲む必要のない者、飲んではいけない者を医師等専門家の知見に基づいて判断することも困難となる事態が予想される。

また、ヨウ素剤の性質(遅いよりは早い方が良い)に鑑みて、事前に配布がなされるべきであることは自明。事実原子力発電所を稼働させている諸国において、近隣住民へのヨウ素剤配布が行われてきた。

東日本大震災当時は?

ヨウ素剤は病院や市役所等に都市の夜間人口に対応できるだけの個数が用意されたが、大部分が使われることがなかった。

この教訓により、国(原子力規制委員会)が2013(平成25)年6月に原子力災害対策指針を改正し、PAZ(原発から概ね5キロメートル以内の地域)の住民に安定ヨウ素剤を事前配布することとした。これを受けて、原発のある道府県では対象となる住民への安定ヨウ素剤配布が始まった。

これにより、災害発生時に交通が麻痺していても、手元にあるヨウ素剤を服用できるようになった。ただし、服用は国・自治体からの指示を待つこととなっており、情報伝達・受信手段の確保は必須である。なお、日本国内でもサプリメントとしての購入は可能。

5キロ圏内、30キロ圏内

(用語解説3)

原子力災害対策指針(の概要)の中に、発電用原子炉施設の原子力災害対策重点区域が決められている。

原子力災害対策重点区域:原子力災害の及ぶ可能性のある区域をあらかじめ定め、重点的に防護措置を実施する。

【予防的防護措置を準備する区域】

PAZ (Precautionary Action Zone):原子力施設からおおむね半径5 km(目安)

=急速に進展する事故においても放射線被曝による重篤な確定的影響を回避し又は最小化するため、EAL(*1)に応じて即時避難を実施する等、放射性物質が放出される前の段階から予防的に防護措置を準備する区域

【緊急防護措置を準備する区域】

UPZ (Urgent Protective Action Planning Zone):原子力施設からおおむね半径30km(目安)

=確率的影響のリスクを低減するため、EAL、OIL(*2)に基づき、緊急防護措置を準備する区域

*1, 2 いずれも防護措置実行の意思決定の枠組みの略語でそれぞれ放射性物質放出前、放出後の意思決定過程に対応。

EAL(Emergency Action Level): 緊急時活動レベル、施設の状態に基づき緊急事態区分を決定し予防的防護措置を実行。

OIL(Operational Intervention Level): 運用上の介入レベル、観測可能な指標に基づき緊急防護措置等を実行。

本記事の作成にあたり参照した原子力規制庁の資料(既に公開されている)をここに2つ貼り付けておく。必要なときにダウンロードして下さい。

181213-1原子力災害対策指針の概要

安定ヨウ素剤の服用等に関する検討チーム会合-報告書-概要版