書評 緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」 元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

書評

緊急出版
「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」
元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

まずは、この本の出版動機にもなっている、福島第一原発1号機の現状に関する新聞記事を見てみよう:
(1) 「原子炉容器土台の全集で内壁が損傷、鉄筋がむき出し 東電がパノラマ画像を公開 福島第一原発1号機」 2023年4月14日 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/244178

(2)「福島第一原発の土台損傷、原子力規制委員会が対策要求 東電見通しを『楽観的』と批判する理由は?」2023年5月25日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/252190 

(3)「『圧力容器が落下しても大きな影響なし』と東電、規制委は再検討を要求 土台の損傷で予測」 2023年6月5日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/254851  

著者の森資晴雄氏は、紹介にもある通り、元三菱重工業の主席技師で、若いころ、鹿島建設と共同で原子炉の耐震研究を行ったことがあり、そのときの研究対象が(偶然にも)この1号機であったと述べている。1号機の現状の危機的状況を検討するのに正に最適な人のひとりであると思われるが、残念ながら今はいわゆる「原子力村」の人ではない。

このような立場故に、本書で示されている危機に対する緊急の警告が国会や原子力規制委員会、東京電力にまともに取り上げられていないのは大変残念で、一刻の猶予も無いというのはあながち大袈裟でない気がする。

本書の警告内容

上記の一連の記事で報告・指摘されているのは、原子炉格納容器の中で圧力容器(原子炉本体、この内部で核反応が起きている)を支えている円形の土台の底部が、メルトダウンによる圧力容器からの核燃料の溶け落ち(→デプリ形成)により、ほぼ全周にわたって、コンクリートが損傷し、鉄筋がむき出しになっていることである。これにより、地震への耐荷重が著しく減少し、倒壊の危険が増している。それにより、以下のような連鎖的かつ壊滅的な災害が日本全国規模で発生する恐れがある。

本書の警告内容を、予想される最悪のストーリーでまとめると次のようになる:

1号機の現状: 圧力容器を支えているペデスタル=土台の底部が著しく損傷し、内部の鉄筋がむき出しになっている(恐らくほぼ全周に広がっている!上写真、図参照、いずれも記事内資料)

震度6強以上の地震(日本各地で年平均1回は発生)で転倒の恐れあり。これは地震時にかかる鉛直荷重、水平荷重、曲げ荷重の内、後2者に耐えられず、横にずれた後転倒することを意味する。

転倒方向は、最も弱い方向=屋上の使用済燃料プールを押しつぶす方向の可能性大。これによりプールが損傷し水が抜けて冷却が出来なくなり、燃料体の発熱・溶解・外部飛散が進み、大量の放射性ダストが飛散。

人が入れない領域が第一原子力発電所外にも広がり、第二原子力発電所もその中に含まれてしまう。第二原子力発電所の使用済燃料も管理不能に!

第一、二原子力発電所合せて3000トンの燃料体(広島原発の150,000倍)が管理不能になり放置されると莫大な放射性物質が発生し、首都圏・東日本は壊滅。

人が入れない地域はさらに北(宮城県女川原発、青森県六ケ所村再処理工場、北海道泊原発)や西日本(新潟県柏崎刈羽原発、静岡県浜岡原発、若狭湾岸原発銀座、島根原発、愛媛県伊方原発、鹿児島県川内原発など)にも拡大し、「全国の原発がドミノ倒しのように制御不能となり、日本全土は高濃度の放射性物質に覆われた廃土と化します」

第一原子力発電所に残されている使用済核燃料の両:1号機の使用済燃料プール;燃料392体=3、4号機は別の場所に保管。

これに加えて、燃料デプリ(推定約8,000トン)の管理も(取り出しどころか)不可能になり、使用済核燃料の管理不能からの暴走に加え、さらに災害規模が拡大されることは確実で、このことは忘れられてはならない。

東電と規制委員会の対応

記事(3)にもあるように、このような1号機の危機的な現状と森重氏の警告にもかかわらず、東京電力は、圧力容器が落下する可能性は低い(土台の損傷はそれほど酷くない!?)、仮に落下し格納容器に穴が開いて建屋買いに放射性物質が飛散しても作業員や周辺住民の被ばくはごく小さい、としています(上図内、説明参照)。これは恐らく燃料プールの損壊は想定していないと思われます。但し、緊急時に対処するための資機材は(23年)12月末までに整備予定としています。

これに対し、原子力規制委員会は放出される放射線の種類と量の想定が不十分、想定する地震の大きさも不十分、緊急時の対処手順の具体的な検討などの諸点を指摘している(2023年末段階)。

しかしながら本書の警告に対し、数度にわたる国会での質問や規制委員会での森重氏のプレゼンにもかかわらず、日本政府は今のところ何ら具体的な対策に取り掛かる気配はない。

対策の提案

現状での悲観的な予想・見通しに対し、本書はそのような最悪の事態(倒壊)を防ぐための具体的な工法も提案している。ここでは詳細に踏み込まないが、恐らく原子炉圧力容器の倒壊を防ぐほとんど唯一の対案・方法かと思われる。

この問題の2024年末の現状と水素爆発の問題に関して致命的な欠陥のある沸騰水型原発の所在地と現状については、次の投稿で詳述する。

本の紹介(1)

紹介したい本は以下の2冊である。

  • 核実験地に住む アケルケ・スルタノヴァ 花伝社 ¥2,000+税
  • セミパラチンスク 草原の民・核汚染の50 森住 卓 高文研 ¥2,000+税

著作1:核実験地に住む アケルケ・スルタノヴァ

 書名から想像できるように、これら2冊の本は、中央アジアに位置する旧ソビエト連邦の核実験場の一つであるセミパラチンスク(現在のカザフスタン共和国*1の東北部)における第2次大戦直後から始まった永年にわたる数多くの核実験による大規模な被爆・核被害を扱ったものである。

 著作1)は昨年に出版された比較的新しい書籍で、その中身は第1部 セミパラチンスクでのフィールドワークから、第2部 「正史」としてのセミパラチンスク核実験場で構成されており、第1部はさらに5つの章、セミパラチンスクにおけるソ連の核実験、「正史」が語ること、隠すこと、住民の証言の中の被ばく、「実験台」としての住民、治療なしの診察・入院、インタビューを振り返って、を含む。この構成を見ると、「論文のようだね」という印象を持たれる方も多いと思われるが、本書は正に、セミパラチンスク出身の筆者(アケルケ・スルタノヴァ Akerke SULTANOVA)さんが、日本の大学で執筆した修士論文をベースに生み出された著作なのである。「論文」とは言っても、内容は多岐に渡った臨場感あるルポルタージュになっており、筆者の日本語の学習成果が反映され、文章は平易で読みやすくごく普通の日本人にとっても容易に読了できるものとなっている。

 本書の重要な特色は、筆者が現地の出身者であることを十二分に活かした、これまで殆ど記録が無いと思われる、様々な性別、年齢の男女への大規模な聞き取り調査の報告でもある点であろう。核実験(この実験場では1949-1989の40年間に456回行われた!)の様々な(住民の健康面に留まらず、農業や牧畜産業の面における)被害は、四国に匹敵するような広い範囲に及び約200万人が被爆したにも拘らず、旧ソ連時代には語ることは事実上タブーで、健康調査や医療サービスについてもその結果の多くは個人的にも社会統計的にも明らかにされることは殆どなく、秘密裏に進められた。このように、極めて不十分ないわゆる「正史」しか存在しない状況に対し、1990年代以降とはいえ、系統的な聞き取り調査により、極めて深刻な核被害者となっていた当事者の生の声を記録しているのは極めて大きい意義をもつと考えられる。

 またこのような著作が世に出るにあたり、幸いにも、筆者の高校生の時の広島への留学経験をきっかけとし今日まで永年培われてきた、日本との様々な関係が多少なりとも貢献しているらしい点にも注意すべきである。

 2度の原爆被害と福島原発事故を経験した私たちがなすべきことは、重厚長大産業の生き残りのための時代遅れの国策原発輸出などではなく(既に殆ど頓挫しているが)、これまでの医療面、被害調査面での膨大な蓄積や、福島での失敗した事故対応経験などを隠蔽することなく世界に発信し、同様の問題に悩む多くの世界の人々に貢献することでは無いだろうか?本書は、核に関してわれわれが今後進むべき民間国際協力の方向性をも示唆しているように思われる。

著作2:セミパラチンスク 草原の民・核汚染の50 森住 卓

  著作2)は、1951年生まれのフォトジャーナリスト 森住 卓(たかし)氏の著作で、複数の章を受賞したセミパラチンスクに関する最初の著作「旧ソ連セミパラチンスク核実験場の村—−被爆者のさけび」1995年自費出版、に続くものである。内容は、文章部分こそカザフスタン共和国の紹介と「それは祖国への核戦争だった――草原に核汚染の現実を追って」というルポルタージュという形式を取っているが、容易に想像できるように、文章に併せて掲載されている多くの圧倒的なヴィジュアル=写真こそ本書の一大特色である。その中には、カザフスタンの自然、人々の生活に加え、被爆によると思われる動物の奇形や幼児・子どもの様々な身体的症状が記録されている。この意味で、正に著書1)を的確に補足するものとなっている。われわれはこれらに眼を背けずしっかりと対峙する必要がある。そして、これらの、特に想像を越えた健康被害について「あれは命令されたことをやった結果にすぎない」、「核実験との因果関係は証明されていない」などと言っている旧ソ連の様々な人々を許して良いのであろうかということである。少なくとも共産党、軍の官僚や全てのデータを持ち去り未だ殆ど公開していない現ロシアの官僚は直ちにデータを公開し、核実験・健康被害調査の全貌を明らかにし、(因果関係究明はともかくとして)残された被害者の救済を始めるべきであろう。そして、われわれ日本人も被爆国でかつフクシマを生み出してしまった存在として、彼らへの支援連帯行動に微力でも参加すべきではないだろうか?

*1 ロシア連邦の南、中国の西に隣接しており、旧ソ連邦時代には連邦の1構成国カザフ・ソビエト社会主義共和国であったが、ソ連崩壊にともない1991年12月に独立した。