書評の続き3:緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評(続き3)

緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、前投稿 書評(続き1、2)に加筆し、2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。以下で参照して内容を検討する原子力規制委員会関連の資料リストを再掲する:

4)第37回原子力規制委員会令和5年10月11日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 218KB】

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(2回目)【PDF: 5.0MB】

 この会議では、前回までに結果の報告があった、早急な対応を求めた指示事項(1)及び(2)以外の指示事項(3)について、「東京電力の検討状況を聴取し、10 月5日の第109回特定原子力施設監視・評価検討会において東京電力の評価 結果と以下に示す原子力規制庁の見解を共有した」としている。その中身は主に以下の2点である:

① 圧力容器、格納容器への構造上の影響評価に対する原子力規制庁の見解

東京電力が示した圧力容器、格納容器への構造上の影響評価の概要及びそれに対する原子力規制庁の見解詳細は別紙1(下に掲載=投稿者)のとおり(東京電力の評価詳細については別紙2(下に引用=投稿者)参照)。原子力規制庁は、1号機原子炉建屋内及び格納容器内が 高線量であるため事故後の実態を詳細に調査することは困難であり、評価の前提や入力値を仮定に基づいて設定せざるを得ないことから、事故後の実態を反映した評価を実施することには現時点で限界があることを認識し、仮定に基づいた評価の妥当性を確認することは困難であると判断した。なお、東京電力に対しては、評価に用いている不確かさを含むパラメータに ついて、今後の調査や解析によって反映できる情報が特定された場合には、再評価していくことを求める。

② 環境への影響に関する原子力規制庁の見解

上記のとおり圧力容器、格納容器への構造上の影響評価の妥当性を確認することは困難であるところ、原子力規制庁は、ペデスタルの損傷により圧力容器が転倒するという極端な仮定による原子炉建屋への影響についても確認を行った。具体的には、圧力容器、原子炉遮へい壁、格納容器が一体となって原子炉建屋へと転倒し、水平荷重の伝達もしくは原子炉建屋への直接の衝突が起きるという極端な想定においても、原子炉建屋全体としての構造健全性は十分に維持されることを確認した(別紙2の参考、別紙3参照(両方とも下に引用=投稿者))。(中略)また、原子炉建屋に存在する主なリスク源を網羅するため、使用済燃料についても考察した結果、上記のとおり極端な仮定においても使用済燃料プールを 含む原子炉建屋の構造健全性は維持されることから、使用済燃料が外的損傷を受けることや使用済燃料プールから水が抜けることは考えられず、使用済燃料 による環境への影響はないと考えられる。 (中略)東京電力は1号機使用済燃料プー ルの水抜け時の温度評価と敷地境界での線量評価も示しており(別紙2の参考 参照)、原子力規制庁は、水抜け時も温度上昇は限定的であるため使用済燃料は破損せず、また水抜けによる敷地境界への線量影響は限定的である※ことを確認した。 ※東京電力による、水抜けした使用済燃料プールからの直接線・スカイシャイン線 による敷地境界での線量評価結果は、0.53μSv/h。

また今後の予定として、

事故分析・調査等による新たな知見を注視し、構造上の影響評価に 用いている不確かさを含むパラメータへの新知見の反映等を必要に応じて確認していくとともに、原子炉建屋の剛性の変化を監視するために有用と考えられる1号機原子炉建屋上部への地震計の設置について、早期の実現に向けて東京電力を指導・監視していく、としている。最後にこれらの論点とそれらへの対応結果は別紙3の最後に付けられた表(参考1=以下に掲載)にまとめられている。

 以上の詳細な議論には、理系でも専門外の投稿者にはなかなか追跡・理解するのは大変であるが、果たして妥当な議論はなされているのであろうか?

 参考資料

(別紙1)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-2(RPV・PCVへ の構造上の影響に係る東京電力の評価と原子力規制庁の見解【原子 力規制庁】)一部修正

(別紙2)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)

補足説明資料

【参考】圧力容器倒壊における原子炉建屋への影響評価および 使用済燃料プール水位低下した際の影響評価について

1.PCVに接触した際の原子炉建屋への影響評価

2.使用済燃料プールが損傷,プール水位が低下した際の 敷地境界線量率および原子炉建屋周辺線量率への影響評価(資料は以下の頁から8ページに渡る)

 (別紙3)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-3(1号機ペデスタル損傷状況を踏まえた原子炉建屋への影響確認【原子力規制庁】)別紙3.pdf

(参考1)東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析の結果を踏まえたこれまでの主な対応状況

書評の続き2:緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評の続き2:緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、前投稿 書評(続き1)に加筆し、2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。

  まず、参照して内容を検討する原子力規制委員会関連の資料リストを再掲する:

3)第24回原子力規制委員会 令和5年07月26日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 266KB

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況【PDF: 2.0MB

 この会合の主な目的は「本年5月24日の第12回原子力規制委員会での原子力規制庁への指示に対する対応の状況について報告する」ことであるとされ、経緯の中で、5月24日に原子力規制庁から東京電力に伝達された以下の3つの対応方針が再掲されている:

(1)格納容器に開口部ができるという 前提に立って環境に放射性物質が放出されるのか影響を評価し、

(2)環境に 影響があるという前提で対策を検討すること。並行して、

(3)ペデスタルの 機能が喪失したとして、圧力容器、格納容器に構造上の影響がないかどうかを 検討すること

 この内(1)(2)については、6月5日に開催された技術会合(第10回特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合、以下「1F技術会合」)で議論され、その結果について7月24日の第108回特定原子力施設監視・評価検討会(以下「監視・評価検討会」という。)において共有されたと説明があり、その中身として次のような要約がある:

(1)放射性物質の放出による影響の評価 ペデスタルの支持機能喪失によって格納容器に大きな開口が生じ、それに 伴って圧力容器の外表面汚染物、もしくは圧力容器内のデブリが飛散するケースを想定した場合においても、事象に伴って発生する放射性物質の飛散による敷地境界における実効線量は最大で 0.04mSv にとどまり、通常の実用発 電用原子炉の安全評価における事故時の基準である5mSvを大きく下回る。

(2)、、放射性物質の放出を抑制するために有効な対策は、格納容器への窒素封入を停止し放射性物質の押し出しを抑制することである。しかしながら、ペデスタルの支持機能低下及び開口の有無を直接検知することは困難であるため、あらかじめ、窒素封入を停止する手順を実施 計画に基づく運転管理に関する文書に定め、今後それに基づき対応を行う。具体的には、震度6弱以上の地震が発生した場合、もしくは格納容器内のダスト 濃度が上昇した場合には窒素封入を停止する。その後、格納容器内のダスト濃 度が事象発生前と同等であることを確認できた場合窒素封入を再開することとする。

対応する別紙2,3頁を下記に示す:

 上記文章、及び資料もイマイチ解りにくいので、上掲議事録の中にある2つの発言を引用しておく:

○伴委員 質問というか、補足ですけれども、結局、開口部が生じたとしても、ダストの発生はあるものの、そもそも内部は高温・高圧ではないので、それを放出する動力源がないと。唯 一あるのは、窒素雰囲気にするために窒素の封入をしていますから、だから、それを止めてしまえば、もう本当に押し出す力がなくなりますので、それが一番確実な方法であると。 更に、窒素封入を停止したところで水素濃度が急激に上昇するようなことはなくて、東電の評価だと少なくとも数か月以上の余裕はあるということですので、その間に状況を確認 した上で、窒素封入を再開すればいいという合理的な考え方だと思っています。

○山中委員長 追加で、私が推測するのも妙な話ですけれども、東京電力の解析というのは、(1)と (2)、これを両方合わせてですけれども、ものすごく大きな穴が開こうが、ある一定の穴が開こうが、あるところを超えると、その放出量はほとんど変わらないよという、そう いう評価だと。つまり、差圧が立たなくなったら物は外に出ませんよという。だから、仮 にものすごく大きな穴が開いても、差圧が立たなくなるので、ダストは外に出ませんという、そういうモデルですよね。なので、(3)の結果がどうなろうとも(1)(2)は有効な結果であるという、そういう解釈をしておけばいいということですね。

 「定常状態?が保たれれば、まあ最悪の事態にはならないだろう」という、若干心許ない結論の気がするが、、、。その詳しい説明は次の別紙1に記述されているが、かなり専門的なのでここでは詳細には踏み込まない。

(別紙1)第108回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1

書評の続き1:緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評(続き1)

緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、まず2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。本書は同年12月1日に初版発行であるが、当然そこで行われた議論やそのもととなる資料を参照した上で、執筆されている。森重氏の詳しい「反論」はfacebook https://www.facebook.com/people/%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E4%BA%8B%E6%95%85%E5%AF%BE%E7%AD%96%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E4%BC%9A/100077180667206/を参照されたい。本書の内容にもとづく国会質問も同年6月に2回行われているが、東日本大震災震災以前の感覚に逆戻りし「専門家(東電と規制委員会)の言うことを信用しろ」という感じの答弁である。また、原子力村の「専門家」たちは国民を騙そうとしている?!

 ここでは2023年の関連する原子力規制委員会の文書(全て委員会のHP https://www.nra.go.jp/ から参照できる)を順に参照しながら、資料内の関連部分を抜粋・引用し、議論の経過の整理を試みる。この作業は、当該HPが複雑さ・整理の悪さゆえに大変わかりにくいものになっていて、門外漢の投稿者(物性物理学者)には結構時間がかかったことを付記しておく。

ここで参照する文書は以下の5つである:

1)原子力規制委員会記者会見録 令和5年5月10日(水)17:00~

2)第12回原子力規制委員会 令和5年05月24日(水)10:30~12:00

議事録【PDF: 357KB】

資料5 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタル及び原子炉補機冷却系の配管の状況を踏まえた今後の対応【PDF: 2.7MB】

(参考1)第107回特定原子力施設監視・評価検討会資料5-1(1号機 原子 炉格納容器内部調査の状況について【東京電力】)からの抜粋

(参考2)第106回特定原子力施設監視・評価検討会資料3-2(東京電力ホー ルディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるPCV の閉じ込め機能の維持に関する論点【原子力規制庁】)

3)第24回原子力規制委員会 令和5年07月26日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 266KB】

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況【PDF: 2.0MB】

(別紙1)第108回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデ スタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)

4)第37回原子力規制委員会令和5年10月11日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 218KB】

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(2回目)【PDF: 5.0MB】

(別紙1)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-2(RPV・PCVへ の構造上の影響に係る東京電力の評価と原子力規制庁の見解【原子力規制庁】)一部修正

(別紙2)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)

 (別紙3)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-3(1号機ペデス タル損傷状況を踏まえた原子炉建屋への影響確認【原子力規制庁】)

(参考1)東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析の結果を踏まえたこれまでの主な対応状況

全体は長くなるので、本稿ではまず1)2)について資料中の文章を要約して紹介する。

1)原子力規制委員会記者会見録 令和5年5月10日(水)17:00~

本会見録では、約3名の記者から福島第一原発の件について質問が出ている。以下それぞれの質疑の概要(要約)は以下の通りである。

記者1 最後に委員長のほうから、福島第一原発のペデスタル の大規模損傷の件で、規制庁のほうに指示を出されていたが、改めて、どんなことを東電に要求するか。○山中委員長 ペデスタルの耐震性について、東京電力の評価を待たずに委員会としてどういうようなことを、、要求していくのかということを、、早く東京電力に指示したほうが いいという判断をして、今日、項目をまとめて委員会に上げてほしいという指示をいたしました。 具体的に言いますと、ペデスタルの支持機能が失われた場合に何が起こって、環境に 影響があるのか。あるならば、対策としてどういうことを考えなければならないのか ということを、東京電力に、、考えてほしいと思っています。 それを、それほどゆっくりして議論をしていく必要はないかなというふうに思います、、。

記者2 、、1F(福島第一原子力発電所)のペデスタルのお話で、、今日の議論、やり取りを見ていますと、ゴールデンウィーク前よりも委員長の中での危機感というか、より具体性を増していて、、より踏み込んだ対応が必要と判断するに至った何かがあったのかなと思ったのですけど、、。○山中委員長 特にございません。 、、きちっと項目を示しあげたほうが、 東京電力も対応しやすいだろうなという、そういう判断でございます。○記者 、、ペデスタルの支持機能が仮に失われた場合に何が起こるのかというところ、これから事務方が検討して示すとは思うのですけど、特にどういった部分をはっきり示してほしいですか。 、、支持機能がなくなった場合に、何が懸念されるのか。○山中委員長 支持機能がなくなった場合、例えば、こういうところが壊れます。環境に 影響があるのですか、ないのですか。ないならば全く問題ないですし、あるならば、 どんな対策が可能ですか。そういうところまで、きちっと東京電力には検討してほしいというところでございます。○山中委員長 ものすごく詳細な耐震評価をする、そういう必要はないというふうに思っておりますし、、どこまで、例えばコンクリートの劣化が進んでいるかということも不明なので、まずは機能が失われた場合に、どういうところがこの程度壊れて、それでも環境に影響があるのか、ないのか。あるならばこんな対策は可能です、 そこまで示してほしいということです。

記者3 、、定例会で2回続けて同じ趣旨のことを言われたということで、これは、全体として土台損傷についての対応の遅さみたいのを感じられているのですか、、。○山中委員長 この前の話題の出し方というのが具体的ではなかったかなという自分でも 反省がありますし、より具体的な提案を東京電力側にしたほうがいいかなということで、、ペデスタルの機能が喪失した場合に何が起こって、どういう影響があって、あるいは、影響があるなら、どういう対策 が考えられるのかということを検討してほしいという、そういう思いでございます。○記者 、、この東電の対応のスピードというか、それに ついては現状どう思われているのですか。○山中委員長 恐らく、ものすごく厳密な耐震評価をしようとして時間がかかっている。 そういう意味で、早く対応してほしいというのが私の気持ちです。そんな厳密な評価 をするにしたって、何が起こっているか分からないのに、そういう意味はないでしょうと。○記者 格納容器の近くには使用済のプールもあったり、あそこが傷つくと、かなりすごくリスクが高いと思うのですけども、格納容器外の建屋への影響というのは、仮定で 恐縮ですけど、どう思われますか。○山中委員長 そこまでは、今のところ考えておりません

 これらの質疑からわかるのは、山中委員長は、原子炉底部崩壊の東京電力の報告を受け、なるべく早く、ペデスタル支持機構崩壊の影響と対策を出せ、と指示したいようである。当然、厳密な議論は無理と考えていると思われるが。但し、これらの論点に関する回答は、既に4月14日の第107回特定原子力施設監視・評価検討会でなされているが。

2)第12回原子力規制委員会 令和5年05月24日(水)10:30~12:00

議事録【PDF: 357KB】

資料5 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタル及び原子炉補機冷却系の配管の状況を踏まえた今後の対応【PDF: 2.7MB】

経緯

令和5(2023)年3月

東京電力が令和5年3月に実施した1号機原子炉格納容器の内部調査において、ペデスタル内全周でコンクリートの損傷が確認された

令和5 年4月14日の第107回特定原子力施設監視・評価検討会

 東京電力から、今後耐震評価を行うことのほか、ペデスタルが座屈した場合でも格納容器貫通部は損傷しないとする報告を受けた(参考1)。それに対し、原子力規制庁からは、ペデスタルの耐震評価はその前提条件の妥当性の判断が困難であることから、ペデスタルの支持機能喪失による影響の考察を確認することとしている。

 また、1号機原子炉補機冷却系(RCW)を通じた原子炉格納容器からの放射性物質の漏えいについては、(中略)原子力規制庁の調査で、原子炉建屋内のRCWサージタンク及びその床 面で高線量部位が認められたことなどから、

令和5年4月24日の第37回事故分析検討会

格納容器内の放射性物質の移行経路として特定した(参考3)とされている。

参考資料:

(参考1)第107回特定原子力施設監視・評価検討会資料5-1(1号機 原子 炉格納容器内部調査の状況について【東京電力】)からの抜粋

ペデスタル開口部から撮影した映像のパノラマ画像:格納容器底部付近のペデスタルや鉄筋の損傷の様子が良く解る。

ペデスタルの支持機能喪失時の影響考察:次の3点について記述がある。a) 上部構造物(RPV/PSW (BSW?)他)の挙動、b)上部構造物沈下の考察、c) 閉じ込め機能への影響。以降の頁に詳しい説明がある。

1号機の構造物配置概要。RPV; Reactor Pressure Vessel、原子炉圧力容器。BSW; Bio-shielding Wall、生体遮蔽壁

 資料の続く4頁にもあるように、上記a)b)c)の各点についての見解は以下のようで、「基本的に大きな問題は無い」というものである。

  1. 上部構造物の挙動:地震時挙動を想定する観点から、、水平方向は周辺構造部材による移動制限が可能であり、倒壊等に至らない。垂直方向の沈下は、周辺構造部材で支持できず基礎が損失した分、上部構造物が沈下可能性あり。
  2. 上部構造物沈下の考察:(以下の議論は仮定・推測が多いと感じられるが)これまでの地震に対し、ペデスタルの支持機能は維持されていると想定すると、鉄筋の露出長さ(1.3 m)を考慮すると損傷の形態としてはまず座屈が発生する。インナースカートにも有意な変形は確認されていないことなどから、沈下量は0.3 m程度に留まる
  3. 閉じ込め機能への影響:上部構造物が沈下した際の閉じ込め機能に影響を及ぼす個所として,上部構造物接続配管接合部(PCVペネトレーション(以下,ペネ))を選定し影響評価。ペネ部に発生する応 力は許容応力を下回り,閉じ込め機能の喪失には至らない見込み、である。また、【ダスト飛散の影響】 については、RPV等の傾斜・沈下が生じても、周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えることはないと考察する、としている。これに関しては、以下の資料も提出されているが、かなり専門的なのでここでは省略する。

(参考2)第106回特定原子力施設監視・評価検討会資料3-2(東京電力ホー ルディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるPCV の閉じ込め機能の維持に関する論点【原子力規制庁】)

 これについては次のような記述がある: 東京電力が負圧化への課題としている3点に関し、以下の具体的な論点について 特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合において議論を行う。東京電力には、当該議論を踏まえ、2023年度中に格納容器内部の閉じ込め機能維持方針を策定することを求める。

「水素爆発⇒可燃限界を超えない管理が必要」

  1. PCV を負圧化した場合の水素・酸素の流入量の評価と流入に伴う水素爆発リスク
  2. 今後予定しているS/C水位低下によって水封が解かれ、S/Cに接続してい る配管から水素を含む気体が逆流する可能性
  3. 空気の流量管理を含めたPCVの試験的負圧化の計画策定

 「PCV腐食の加速:構造健全性(耐震強度等)への影響」

  1. 負圧化した場合の酸素流入量と流量管理から想定されるPCV内の酸素濃度
  2. 酸素濃度に伴うPCV及びRPVを支持する鋼材その他安全を確保する上で必要な鋼材の腐食進展評価
  3. それらの鋼材の強度に対する具体的な影響評価

「デブリ等の性状変化リスク:酸化による微粒子化」

  1. 負圧化した場合の酸素流入量と流量管理から想定されるPCV内の酸素濃度
  2. 酸素濃度に伴うデブリの酸化進展評価
  3. デブリの酸化による廃炉作業への影響

書評 緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」 元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

書評

緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」
元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

まずは、この本の出版動機にもなっている、福島第一原発1号機の現状に関する新聞記事を見てみよう:
(1) 「原子炉容器土台の全集で内壁が損傷、鉄筋がむき出し 東電がパノラマ画像を公開 福島第一原発1号機」 2023年4月14日 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/244178

(2)「福島第一原発の土台損傷、原子力規制委員会が対策要求 東電見通しを『楽観的』と批判する理由は?」2023年5月25日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/252190 

(3)「『圧力容器が落下しても大きな影響なし』と東電、規制委は再検討を要求 土台の損傷で予測」 2023年6月5日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/254851  

著者の森資晴雄氏は、紹介にもある通り、元三菱重工業の主席技師で、若いころ、鹿島建設と共同で原子炉の耐震研究を行ったことがあり、そのときの研究対象が(偶然にも)この1号機であったと述べている。1号機の現状の危機的状況を検討するのに正に最適な人のひとりであると思われるが、残念ながら今はいわゆる「原子力村」の人ではない。

このような立場故に、本書で示されている危機に対する緊急の警告が国会や原子力規制委員会、東京電力にまともに取り上げられていないのは大変残念で、一刻の猶予も無いというのはあながち大袈裟でない気がする。

本書の警告内容

上記の一連の記事で報告・指摘されているのは、原子炉格納容器の中で圧力容器(原子炉本体、この内部で核反応が起きている)を支えている円形の土台の底部が、メルトダウンによる圧力容器からの核燃料の溶け落ち(→デプリ形成)により、ほぼ全周にわたって、コンクリートが損傷し、鉄筋がむき出しになっていることである。これにより、地震への耐荷重が著しく減少し、倒壊の危険が増している。それにより、以下のような連鎖的かつ壊滅的な災害が日本全国規模で発生する恐れがある。

本書の警告内容を、予想される最悪のストーリーでまとめると次のようになる:

1号機の現状: 圧力容器を支えているペデスタル=土台の底部が著しく損傷し、内部の鉄筋がむき出しになっている(恐らくほぼ全周に広がっている!上写真、図参照、いずれも記事内資料)

震度6強以上の地震(日本各地で年平均1回は発生)で転倒の恐れあり。これは地震時にかかる鉛直荷重、水平荷重、曲げ荷重の内、後2者に耐えられず、横にずれた後転倒することを意味する。

転倒方向は、最も弱い方向=屋上の使用済燃料プールを押しつぶす方向の可能性大。これによりプールが損傷し水が抜けて冷却が出来なくなり、燃料体の発熱・溶解・外部飛散が進み、大量の放射性ダストが飛散。

人が入れない領域が第一原子力発電所外にも広がり、第二原子力発電所もその中に含まれてしまう。第二原子力発電所の使用済燃料も管理不能に!

第一、二原子力発電所合せて3000トンの燃料体(広島原発の150,000倍)が管理不能になり放置されると莫大な放射性物質が発生し、首都圏・東日本は壊滅。

人が入れない地域はさらに北(宮城県女川原発、青森県六ケ所村再処理工場、北海道泊原発)や西日本(新潟県柏崎刈羽原発、静岡県浜岡原発、若狭湾岸原発銀座、島根原発、愛媛県伊方原発、鹿児島県川内原発など)にも拡大し、「全国の原発がドミノ倒しのように制御不能となり、日本全土は高濃度の放射性物質に覆われた廃土と化します」

第一原子力発電所に残されている使用済核燃料の両:1号機の使用済燃料プール;燃料392体=3、4号機は別の場所に保管。

これに加えて、燃料デプリ(推定約800トン)の管理も(取り出しどころか)不可能になり、使用済核燃料の管理不能からの暴走に加え、さらに災害規模が拡大されることは確実で、このことは忘れられてはならない。

東電と規制委員会の対応

記事(3)にもあるように、このような1号機の危機的な現状と森重氏の警告にもかかわらず、東京電力は、圧力容器が落下する可能性は低い(土台の損傷はそれほど酷くない?)、仮に落下し格納容器に穴が開いて建屋外に放射性物質が飛散しても作業員や周辺住民の被ばくはごく小さい、としている(上図内、説明参照)。これは恐らく燃料プールの損壊は想定していないと思われる。但し、緊急時に対処するための資機材は(23年)12月末までに整備予定としている。

これに対し、原子力規制委員会は放出される放射線の種類と量の想定が不十分、想定する地震の大きさも不十分、緊急時の対処手順の具体的な検討などの諸点を指摘している(2023年中頃)。その後の東電と原子力規制委員会の対応は次の記事で要約して示す。

これらの対応を検証して執筆し、2023年末に出版された本書の警告に対し、数度にわたる国会での質問や様々な場での森重氏のプレゼンにもかかわらず、日本政府は今のところ何ら具体的な対策に取り掛かる気配はない。

対策の提案

現状での悲観的な予想・見通しに対し、本書はそのような最悪の事態(倒壊)を防ぐための具体的な工法も提案している。ここでは詳細に踏み込まないが、恐らく原子炉圧力容器の倒壊を防ぐほとんど唯一の対案・方法かと思われる。

この問題の2024年末の現状と水素爆発の問題に関して致命的な欠陥のある沸騰水型原発の所在地と現状については、次の投稿で詳述する。

本の紹介(1)

紹介したい本は以下の2冊である。

  • 核実験地に住む アケルケ・スルタノヴァ 花伝社 ¥2,000+税
  • セミパラチンスク 草原の民・核汚染の50 森住 卓 高文研 ¥2,000+税

著作1:核実験地に住む アケルケ・スルタノヴァ

 書名から想像できるように、これら2冊の本は、中央アジアに位置する旧ソビエト連邦の核実験場の一つであるセミパラチンスク(現在のカザフスタン共和国*1の東北部)における第2次大戦直後から始まった永年にわたる数多くの核実験による大規模な被爆・核被害を扱ったものである。

 著作1)は昨年に出版された比較的新しい書籍で、その中身は第1部 セミパラチンスクでのフィールドワークから、第2部 「正史」としてのセミパラチンスク核実験場で構成されており、第1部はさらに5つの章、セミパラチンスクにおけるソ連の核実験、「正史」が語ること、隠すこと、住民の証言の中の被ばく、「実験台」としての住民、治療なしの診察・入院、インタビューを振り返って、を含む。この構成を見ると、「論文のようだね」という印象を持たれる方も多いと思われるが、本書は正に、セミパラチンスク出身の筆者(アケルケ・スルタノヴァ Akerke SULTANOVA)さんが、日本の大学で執筆した修士論文をベースに生み出された著作なのである。「論文」とは言っても、内容は多岐に渡った臨場感あるルポルタージュになっており、筆者の日本語の学習成果が反映され、文章は平易で読みやすくごく普通の日本人にとっても容易に読了できるものとなっている。

 本書の重要な特色は、筆者が現地の出身者であることを十二分に活かした、これまで殆ど記録が無いと思われる、様々な性別、年齢の男女への大規模な聞き取り調査の報告でもある点であろう。核実験(この実験場では1949-1989の40年間に456回行われた!)の様々な(住民の健康面に留まらず、農業や牧畜産業の面における)被害は、四国に匹敵するような広い範囲に及び約200万人が被爆したにも拘らず、旧ソ連時代には語ることは事実上タブーで、健康調査や医療サービスについてもその結果の多くは個人的にも社会統計的にも明らかにされることは殆どなく、秘密裏に進められた。このように、極めて不十分ないわゆる「正史」しか存在しない状況に対し、1990年代以降とはいえ、系統的な聞き取り調査により、極めて深刻な核被害者となっていた当事者の生の声を記録しているのは極めて大きい意義をもつと考えられる。

 またこのような著作が世に出るにあたり、幸いにも、筆者の高校生の時の広島への留学経験をきっかけとし今日まで永年培われてきた、日本との様々な関係が多少なりとも貢献しているらしい点にも注意すべきである。

 2度の原爆被害と福島原発事故を経験した私たちがなすべきことは、重厚長大産業の生き残りのための時代遅れの国策原発輸出などではなく(既に殆ど頓挫しているが)、これまでの医療面、被害調査面での膨大な蓄積や、福島での失敗した事故対応経験などを隠蔽することなく世界に発信し、同様の問題に悩む多くの世界の人々に貢献することでは無いだろうか?本書は、核に関してわれわれが今後進むべき民間国際協力の方向性をも示唆しているように思われる。

著作2:セミパラチンスク 草原の民・核汚染の50 森住 卓

  著作2)は、1951年生まれのフォトジャーナリスト 森住 卓(たかし)氏の著作で、複数の章を受賞したセミパラチンスクに関する最初の著作「旧ソ連セミパラチンスク核実験場の村—−被爆者のさけび」1995年自費出版、に続くものである。内容は、文章部分こそカザフスタン共和国の紹介と「それは祖国への核戦争だった――草原に核汚染の現実を追って」というルポルタージュという形式を取っているが、容易に想像できるように、文章に併せて掲載されている多くの圧倒的なヴィジュアル=写真こそ本書の一大特色である。その中には、カザフスタンの自然、人々の生活に加え、被爆によると思われる動物の奇形や幼児・子どもの様々な身体的症状が記録されている。この意味で、正に著書1)を的確に補足するものとなっている。われわれはこれらに眼を背けずしっかりと対峙する必要がある。そして、これらの、特に想像を越えた健康被害について「あれは命令されたことをやった結果にすぎない」、「核実験との因果関係は証明されていない」などと言っている旧ソ連の様々な人々を許して良いのであろうかということである。少なくとも共産党、軍の官僚や全てのデータを持ち去り未だ殆ど公開していない現ロシアの官僚は直ちにデータを公開し、核実験・健康被害調査の全貌を明らかにし、(因果関係究明はともかくとして)残された被害者の救済を始めるべきであろう。そして、われわれ日本人も被爆国でかつフクシマを生み出してしまった存在として、彼らへの支援連帯行動に微力でも参加すべきではないだろうか?

*1 ロシア連邦の南、中国の西に隣接しており、旧ソ連邦時代には連邦の1構成国カザフ・ソビエト社会主義共和国であったが、ソ連崩壊にともない1991年12月に独立した。