書評の続き3:緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評(続き3)

緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、前投稿 書評(続き1、2)に加筆し、2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。以下で参照して内容を検討する原子力規制委員会関連の資料リストを再掲する:

4)第37回原子力規制委員会令和5年10月11日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 218KB】

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(2回目)【PDF: 5.0MB】

 この会議では、前回までに結果の報告があった、早急な対応を求めた指示事項(1)及び(2)以外の指示事項(3)について、「東京電力の検討状況を聴取し、10 月5日の第109回特定原子力施設監視・評価検討会において東京電力の評価 結果と以下に示す原子力規制庁の見解を共有した」としている。その中身は主に以下の2点である:

① 圧力容器、格納容器への構造上の影響評価に対する原子力規制庁の見解

東京電力が示した圧力容器、格納容器への構造上の影響評価の概要及びそれに対する原子力規制庁の見解詳細は別紙1(下に掲載=投稿者)のとおり(東京電力の評価詳細については別紙2(下に引用=投稿者)参照)。原子力規制庁は、1号機原子炉建屋内及び格納容器内が 高線量であるため事故後の実態を詳細に調査することは困難であり、評価の前提や入力値を仮定に基づいて設定せざるを得ないことから、事故後の実態を反映した評価を実施することには現時点で限界があることを認識し、仮定に基づいた評価の妥当性を確認することは困難であると判断した。なお、東京電力に対しては、評価に用いている不確かさを含むパラメータに ついて、今後の調査や解析によって反映できる情報が特定された場合には、再評価していくことを求める。

② 環境への影響に関する原子力規制庁の見解

上記のとおり圧力容器、格納容器への構造上の影響評価の妥当性を確認することは困難であるところ、原子力規制庁は、ペデスタルの損傷により圧力容器が転倒するという極端な仮定による原子炉建屋への影響についても確認を行った。具体的には、圧力容器、原子炉遮へい壁、格納容器が一体となって原子炉建屋へと転倒し、水平荷重の伝達もしくは原子炉建屋への直接の衝突が起きるという極端な想定においても、原子炉建屋全体としての構造健全性は十分に維持されることを確認した(別紙2の参考、別紙3参照(両方とも下に引用=投稿者))。(中略)また、原子炉建屋に存在する主なリスク源を網羅するため、使用済燃料についても考察した結果、上記のとおり極端な仮定においても使用済燃料プールを 含む原子炉建屋の構造健全性は維持されることから、使用済燃料が外的損傷を受けることや使用済燃料プールから水が抜けることは考えられず、使用済燃料 による環境への影響はないと考えられる。 (中略)東京電力は1号機使用済燃料プー ルの水抜け時の温度評価と敷地境界での線量評価も示しており(別紙2の参考 参照)、原子力規制庁は、水抜け時も温度上昇は限定的であるため使用済燃料は破損せず、また水抜けによる敷地境界への線量影響は限定的である※ことを確認した。 ※東京電力による、水抜けした使用済燃料プールからの直接線・スカイシャイン線 による敷地境界での線量評価結果は、0.53μSv/h。

また今後の予定として、

事故分析・調査等による新たな知見を注視し、構造上の影響評価に 用いている不確かさを含むパラメータへの新知見の反映等を必要に応じて確認していくとともに、原子炉建屋の剛性の変化を監視するために有用と考えられる1号機原子炉建屋上部への地震計の設置について、早期の実現に向けて東京電力を指導・監視していく、としている。最後にこれらの論点とそれらへの対応結果は別紙3の最後に付けられた表(参考1=以下に掲載)にまとめられている。

 以上の詳細な議論には、理系でも専門外の投稿者にはなかなか追跡・理解するのは大変であるが、果たして妥当な議論はなされているのであろうか?

 参考資料

(別紙1)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-2(RPV・PCVへ の構造上の影響に係る東京電力の評価と原子力規制庁の見解【原子 力規制庁】)一部修正

(別紙2)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)

補足説明資料

【参考】圧力容器倒壊における原子炉建屋への影響評価および 使用済燃料プール水位低下した際の影響評価について

1.PCVに接触した際の原子炉建屋への影響評価

2.使用済燃料プールが損傷,プール水位が低下した際の 敷地境界線量率および原子炉建屋周辺線量率への影響評価(資料は以下の頁から8ページに渡る)

 (別紙3)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-3(1号機ペデスタル損傷状況を踏まえた原子炉建屋への影響確認【原子力規制庁】)別紙3.pdf

(参考1)東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析の結果を踏まえたこれまでの主な対応状況

書評の続き2:緊急出版 「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評の続き2:緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、前投稿 書評(続き1)に加筆し、2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。

  まず、参照して内容を検討する原子力規制委員会関連の資料リストを再掲する:

3)第24回原子力規制委員会 令和5年07月26日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 266KB

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況【PDF: 2.0MB

 この会合の主な目的は「本年5月24日の第12回原子力規制委員会での原子力規制庁への指示に対する対応の状況について報告する」ことであるとされ、経緯の中で、5月24日に原子力規制庁から東京電力に伝達された以下の3つの対応方針が再掲されている:

(1)格納容器に開口部ができるという 前提に立って環境に放射性物質が放出されるのか影響を評価し、

(2)環境に 影響があるという前提で対策を検討すること。並行して、

(3)ペデスタルの 機能が喪失したとして、圧力容器、格納容器に構造上の影響がないかどうかを 検討すること

 この内(1)(2)については、6月5日に開催された技術会合(第10回特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合、以下「1F技術会合」)で議論され、その結果について7月24日の第108回特定原子力施設監視・評価検討会(以下「監視・評価検討会」という。)において共有されたと説明があり、その中身として次のような要約がある:

(1)放射性物質の放出による影響の評価 ペデスタルの支持機能喪失によって格納容器に大きな開口が生じ、それに 伴って圧力容器の外表面汚染物、もしくは圧力容器内のデブリが飛散するケースを想定した場合においても、事象に伴って発生する放射性物質の飛散による敷地境界における実効線量は最大で 0.04mSv にとどまり、通常の実用発 電用原子炉の安全評価における事故時の基準である5mSvを大きく下回る。

(2)、、放射性物質の放出を抑制するために有効な対策は、格納容器への窒素封入を停止し放射性物質の押し出しを抑制することである。しかしながら、ペデスタルの支持機能低下及び開口の有無を直接検知することは困難であるため、あらかじめ、窒素封入を停止する手順を実施 計画に基づく運転管理に関する文書に定め、今後それに基づき対応を行う。具体的には、震度6弱以上の地震が発生した場合、もしくは格納容器内のダスト 濃度が上昇した場合には窒素封入を停止する。その後、格納容器内のダスト濃 度が事象発生前と同等であることを確認できた場合窒素封入を再開することとする。

対応する別紙2,3頁を下記に示す:

 上記文章、及び資料もイマイチ解りにくいので、上掲議事録の中にある2つの発言を引用しておく:

○伴委員 質問というか、補足ですけれども、結局、開口部が生じたとしても、ダストの発生はあるものの、そもそも内部は高温・高圧ではないので、それを放出する動力源がないと。唯 一あるのは、窒素雰囲気にするために窒素の封入をしていますから、だから、それを止めてしまえば、もう本当に押し出す力がなくなりますので、それが一番確実な方法であると。 更に、窒素封入を停止したところで水素濃度が急激に上昇するようなことはなくて、東電の評価だと少なくとも数か月以上の余裕はあるということですので、その間に状況を確認 した上で、窒素封入を再開すればいいという合理的な考え方だと思っています。

○山中委員長 追加で、私が推測するのも妙な話ですけれども、東京電力の解析というのは、(1)と (2)、これを両方合わせてですけれども、ものすごく大きな穴が開こうが、ある一定の穴が開こうが、あるところを超えると、その放出量はほとんど変わらないよという、そう いう評価だと。つまり、差圧が立たなくなったら物は外に出ませんよという。だから、仮 にものすごく大きな穴が開いても、差圧が立たなくなるので、ダストは外に出ませんという、そういうモデルですよね。なので、(3)の結果がどうなろうとも(1)(2)は有効な結果であるという、そういう解釈をしておけばいいということですね。

 「定常状態?が保たれれば、まあ最悪の事態にはならないだろう」という、若干心許ない結論の気がするが、、、。その詳しい説明は次の別紙1に記述されているが、かなり専門的なのでここでは詳細には踏み込まない。

(別紙1)第108回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1

書評の続き1:緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」

書評(続き1)

緊急出版「差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡 回避できるのになぜしないのか?」元三菱重工 主席技師 森重晴雄 せせらぎ出版 2023年12月初版第1刷 発行

 この投稿では、まず2023(令和5)年3月の1号機ペデスタルの損傷発表以来、国と東京電力により行われた一連の対応を、原子力規制委員会の議事録や資料を追跡する形で明らかにする。本書は同年12月1日に初版発行であるが、当然そこで行われた議論やそのもととなる資料を参照した上で、執筆されている。森重氏の詳しい「反論」はfacebook https://www.facebook.com/people/%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E4%BA%8B%E6%95%85%E5%AF%BE%E7%AD%96%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E4%BC%9A/100077180667206/を参照されたい。本書の内容にもとづく国会質問も同年6月に2回行われているが、東日本大震災震災以前の感覚に逆戻りし「専門家(東電と規制委員会)の言うことを信用しろ」という感じの答弁である。また、原子力村の「専門家」たちは国民を騙そうとしている?!

 ここでは2023年の関連する原子力規制委員会の文書(全て委員会のHP https://www.nra.go.jp/ から参照できる)を順に参照しながら、資料内の関連部分を抜粋・引用し、議論の経過の整理を試みる。この作業は、当該HPが複雑さ・整理の悪さゆえに大変わかりにくいものになっていて、門外漢の投稿者(物性物理学者)には結構時間がかかったことを付記しておく。

ここで参照する文書は以下の5つである:

1)原子力規制委員会記者会見録 令和5年5月10日(水)17:00~

2)第12回原子力規制委員会 令和5年05月24日(水)10:30~12:00

議事録【PDF: 357KB】

資料5 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタル及び原子炉補機冷却系の配管の状況を踏まえた今後の対応【PDF: 2.7MB】

(参考1)第107回特定原子力施設監視・評価検討会資料5-1(1号機 原子 炉格納容器内部調査の状況について【東京電力】)からの抜粋

(参考2)第106回特定原子力施設監視・評価検討会資料3-2(東京電力ホー ルディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるPCV の閉じ込め機能の維持に関する論点【原子力規制庁】)

3)第24回原子力規制委員会 令和5年07月26日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 266KB】

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況【PDF: 2.0MB】

(別紙1)第108回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデ スタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)

4)第37回原子力規制委員会令和5年10月11日(水)10:30~12:00 開催

議事録【PDF: 218KB】

資料2 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(2回目)【PDF: 5.0MB】

(別紙1)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-2(RPV・PCVへ の構造上の影響に係る東京電力の評価と原子力規制庁の見解【原子力規制庁】)一部修正

(別紙2)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-1(1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について【東京電力】)

 (別紙3)第109回特定原子力施設監視・評価検討会資料2-3(1号機ペデス タル損傷状況を踏まえた原子炉建屋への影響確認【原子力規制庁】)

(参考1)東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析の結果を踏まえたこれまでの主な対応状況

全体は長くなるので、本稿ではまず1)2)について資料中の文章を要約して紹介する。

1)原子力規制委員会記者会見録 令和5年5月10日(水)17:00~

本会見録では、約3名の記者から福島第一原発の件について質問が出ている。以下それぞれの質疑の概要(要約)は以下の通りである。

記者1 最後に委員長のほうから、福島第一原発のペデスタル の大規模損傷の件で、規制庁のほうに指示を出されていたが、改めて、どんなことを東電に要求するか。○山中委員長 ペデスタルの耐震性について、東京電力の評価を待たずに委員会としてどういうようなことを、、要求していくのかということを、、早く東京電力に指示したほうが いいという判断をして、今日、項目をまとめて委員会に上げてほしいという指示をいたしました。 具体的に言いますと、ペデスタルの支持機能が失われた場合に何が起こって、環境に 影響があるのか。あるならば、対策としてどういうことを考えなければならないのか ということを、東京電力に、、考えてほしいと思っています。 それを、それほどゆっくりして議論をしていく必要はないかなというふうに思います、、。

記者2 、、1F(福島第一原子力発電所)のペデスタルのお話で、、今日の議論、やり取りを見ていますと、ゴールデンウィーク前よりも委員長の中での危機感というか、より具体性を増していて、、より踏み込んだ対応が必要と判断するに至った何かがあったのかなと思ったのですけど、、。○山中委員長 特にございません。 、、きちっと項目を示しあげたほうが、 東京電力も対応しやすいだろうなという、そういう判断でございます。○記者 、、ペデスタルの支持機能が仮に失われた場合に何が起こるのかというところ、これから事務方が検討して示すとは思うのですけど、特にどういった部分をはっきり示してほしいですか。 、、支持機能がなくなった場合に、何が懸念されるのか。○山中委員長 支持機能がなくなった場合、例えば、こういうところが壊れます。環境に 影響があるのですか、ないのですか。ないならば全く問題ないですし、あるならば、 どんな対策が可能ですか。そういうところまで、きちっと東京電力には検討してほしいというところでございます。○山中委員長 ものすごく詳細な耐震評価をする、そういう必要はないというふうに思っておりますし、、どこまで、例えばコンクリートの劣化が進んでいるかということも不明なので、まずは機能が失われた場合に、どういうところがこの程度壊れて、それでも環境に影響があるのか、ないのか。あるならばこんな対策は可能です、 そこまで示してほしいということです。

記者3 、、定例会で2回続けて同じ趣旨のことを言われたということで、これは、全体として土台損傷についての対応の遅さみたいのを感じられているのですか、、。○山中委員長 この前の話題の出し方というのが具体的ではなかったかなという自分でも 反省がありますし、より具体的な提案を東京電力側にしたほうがいいかなということで、、ペデスタルの機能が喪失した場合に何が起こって、どういう影響があって、あるいは、影響があるなら、どういう対策 が考えられるのかということを検討してほしいという、そういう思いでございます。○記者 、、この東電の対応のスピードというか、それに ついては現状どう思われているのですか。○山中委員長 恐らく、ものすごく厳密な耐震評価をしようとして時間がかかっている。 そういう意味で、早く対応してほしいというのが私の気持ちです。そんな厳密な評価 をするにしたって、何が起こっているか分からないのに、そういう意味はないでしょうと。○記者 格納容器の近くには使用済のプールもあったり、あそこが傷つくと、かなりすごくリスクが高いと思うのですけども、格納容器外の建屋への影響というのは、仮定で 恐縮ですけど、どう思われますか。○山中委員長 そこまでは、今のところ考えておりません

 これらの質疑からわかるのは、山中委員長は、原子炉底部崩壊の東京電力の報告を受け、なるべく早く、ペデスタル支持機構崩壊の影響と対策を出せ、と指示したいようである。当然、厳密な議論は無理と考えていると思われるが。但し、これらの論点に関する回答は、既に4月14日の第107回特定原子力施設監視・評価検討会でなされているが。

2)第12回原子力規制委員会 令和5年05月24日(水)10:30~12:00

議事録【PDF: 357KB】

資料5 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の1号機ペデスタル及び原子炉補機冷却系の配管の状況を踏まえた今後の対応【PDF: 2.7MB】

経緯

令和5(2023)年3月

東京電力が令和5年3月に実施した1号機原子炉格納容器の内部調査において、ペデスタル内全周でコンクリートの損傷が確認された

令和5 年4月14日の第107回特定原子力施設監視・評価検討会

 東京電力から、今後耐震評価を行うことのほか、ペデスタルが座屈した場合でも格納容器貫通部は損傷しないとする報告を受けた(参考1)。それに対し、原子力規制庁からは、ペデスタルの耐震評価はその前提条件の妥当性の判断が困難であることから、ペデスタルの支持機能喪失による影響の考察を確認することとしている。

 また、1号機原子炉補機冷却系(RCW)を通じた原子炉格納容器からの放射性物質の漏えいについては、(中略)原子力規制庁の調査で、原子炉建屋内のRCWサージタンク及びその床 面で高線量部位が認められたことなどから、

令和5年4月24日の第37回事故分析検討会

格納容器内の放射性物質の移行経路として特定した(参考3)とされている。

参考資料:

(参考1)第107回特定原子力施設監視・評価検討会資料5-1(1号機 原子 炉格納容器内部調査の状況について【東京電力】)からの抜粋

ペデスタル開口部から撮影した映像のパノラマ画像:格納容器底部付近のペデスタルや鉄筋の損傷の様子が良く解る。

ペデスタルの支持機能喪失時の影響考察:次の3点について記述がある。a) 上部構造物(RPV/PSW (BSW?)他)の挙動、b)上部構造物沈下の考察、c) 閉じ込め機能への影響。以降の頁に詳しい説明がある。

1号機の構造物配置概要。RPV; Reactor Pressure Vessel、原子炉圧力容器。BSW; Bio-shielding Wall、生体遮蔽壁

 資料の続く4頁にもあるように、上記a)b)c)の各点についての見解は以下のようで、「基本的に大きな問題は無い」というものである。

  1. 上部構造物の挙動:地震時挙動を想定する観点から、、水平方向は周辺構造部材による移動制限が可能であり、倒壊等に至らない。垂直方向の沈下は、周辺構造部材で支持できず基礎が損失した分、上部構造物が沈下可能性あり。
  2. 上部構造物沈下の考察:(以下の議論は仮定・推測が多いと感じられるが)これまでの地震に対し、ペデスタルの支持機能は維持されていると想定すると、鉄筋の露出長さ(1.3 m)を考慮すると損傷の形態としてはまず座屈が発生する。インナースカートにも有意な変形は確認されていないことなどから、沈下量は0.3 m程度に留まる
  3. 閉じ込め機能への影響:上部構造物が沈下した際の閉じ込め機能に影響を及ぼす個所として,上部構造物接続配管接合部(PCVペネトレーション(以下,ペネ))を選定し影響評価。ペネ部に発生する応 力は許容応力を下回り,閉じ込め機能の喪失には至らない見込み、である。また、【ダスト飛散の影響】 については、RPV等の傾斜・沈下が生じても、周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えることはないと考察する、としている。これに関しては、以下の資料も提出されているが、かなり専門的なのでここでは省略する。

(参考2)第106回特定原子力施設監視・評価検討会資料3-2(東京電力ホー ルディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるPCV の閉じ込め機能の維持に関する論点【原子力規制庁】)

 これについては次のような記述がある: 東京電力が負圧化への課題としている3点に関し、以下の具体的な論点について 特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合において議論を行う。東京電力には、当該議論を踏まえ、2023年度中に格納容器内部の閉じ込め機能維持方針を策定することを求める。

「水素爆発⇒可燃限界を超えない管理が必要」

  1. PCV を負圧化した場合の水素・酸素の流入量の評価と流入に伴う水素爆発リスク
  2. 今後予定しているS/C水位低下によって水封が解かれ、S/Cに接続してい る配管から水素を含む気体が逆流する可能性
  3. 空気の流量管理を含めたPCVの試験的負圧化の計画策定

 「PCV腐食の加速:構造健全性(耐震強度等)への影響」

  1. 負圧化した場合の酸素流入量と流量管理から想定されるPCV内の酸素濃度
  2. 酸素濃度に伴うPCV及びRPVを支持する鋼材その他安全を確保する上で必要な鋼材の腐食進展評価
  3. それらの鋼材の強度に対する具体的な影響評価

「デブリ等の性状変化リスク:酸化による微粒子化」

  1. 負圧化した場合の酸素流入量と流量管理から想定されるPCV内の酸素濃度
  2. 酸素濃度に伴うデブリの酸化進展評価
  3. デブリの酸化による廃炉作業への影響

政府事故調査報告書をアップします!

2011年3月の東電福島原発事故から10年が経とうとしています。しかしながら原発をめぐる日本の状況は、原発再稼働、火山災害との関連性、使用済核燃料の再処理問題など、どれをとっても予断を許しません。今この時大災害が発生すれば、日本の原発群は甚大な被害をわれわれに与えつつ崩壊する可能性が有ります。

われわれが被る被害を最小限にするためには今われわれは何をすべきでしょうか?このことを考える契機の一つとなるのは、福島事故の後、膨大な時間と労力、お金を費やして作成されたのが、数多くの「報告書」です。これらを再度地道に検証し、さらに多くの教訓を引き出すべきではないでしょうか?。

政府事故調査報告書1-1

政府事故調査報告書1-2

政府事故調査報告書1-3

政府事故調査報告書1-4

政府事故調査報告書2-1

政府事故調査報告書2-2

政府事故調査報告書2-3

政府事故調査報告書2-4

政府事故調査報告書2-5

政府事故調査報告書2-6

コロナ禍により、管理者の職場も予想を超えた混乱で多忙を極め、本ブログの更新にもブランクが出てしまったことをお詫びします。何とか以前のペースで更新を続けていきたいと思っていますので、どうぞ宜しくお願い致します。

国会事故調査報告書 全文アップの続きです。

2011年3.11福島原発事故に関し、その原因についての再度の議論の深化のためのきっかけ、あるいは資料として活用されることを願っています。以下、国会事故調報告書後半の資料です。

報告書2 第4部 1-2

報告書2 第4部 3-4

報告書2 第4部 5

報告書2 第4部 6

 

国会事故調査報告書(全文)をアップします。

 

 2011年3.11福島原発事故に関し、その原因についての再度の議論の深化のためのきっかけ、あるいは資料として活用されることを願っています。

大変長いのでまずは前半。

報告書1 はじめに、、本文詳細目次

報告書1 第1部

報告書1 第2部 1

報告書1 第2部 2

報告書1 第3部 1-2

報告書1 第3部 3-6

国会事故調報告書に関しては、最近では石橋 哲さんの次の記事が存在する。

「原発事故経ても忖度ばかり、安全神話、まるで進撃の巨人」

https://digital.asahi.com/articles/ASMDN42C6MDNUPQJ00B.html?iref=pc_ss_date

 石橋さんは、2011年3月におきた福島第一原発事故をめぐり、国会が設けた民間人からなる独立の事故調査委員会(国会事故調、1年間の時限)において、事務局で実務を担った。今も高校などで事故調報告の真髄を語り続ける。インタビュー後の記事の中で石橋さんは次のように述べている。以下上記記事から引用する。

 

➖解散して7年以上も経つ事故調の話をするのはなぜ?

 「事故の背後には、自らの行動をずっと正当化し、責任回避を最優先し、記録を残さないできた不透明な組織と制度があり、それらを許容する法的な枠組みがあったと事故調は指摘しました。その根本原因の解決に向けて不断の改革の努力を尽くすことが、国民一人ひとりの使命だと報告書に書いたからです」

 「国会事故調は、国会が憲政史上初めて作った独立調査委員会です。事故が起きた11年の12月にでき、翌12年7月に592ページに及ぶ報告書を衆参両院の議長に提出しました。委員10人の下、最盛時は約100人のスタッフが延べ1167人の関係者に900時間以上話を聴き、東電や規制官庁に2千件以上の資料を請求して、事故原因や再発防止策を探りました」

➖報告書をもっと知ってもらうための活動、高校でのゼミ(題材は「進撃の巨人」

「そこで友人や知り合った高校生、大学生らと『わかりやすいプロジェクト』という活動を始めました。報告書の内容を一人でも多く知ってもらおうと、メンバーが手作りで動画などにまとめ、ウェブで公開しています」

「これは城壁の外に人を食らう巨人がいるという設定です。安全を守る壁の絶対性を説く支配層、それに従う普通の人々、壁に疑問を抱く少数派の3グループに分かれて、それぞれが何を大事にしているか議論したうえで、そのためにどう行動するかを発表してもらう『なりきりディスカッション』をしました。支配層と普通の人々が疑問を抑えつけ、壁に疑問を持つ人々が少数である限り、巨人が壁を壊してなだれ込み、多くの人が食われる結果を招きます」

➖本当の原因は「制度的な欠陥・問題」

「事故や災害が起きると、様々な問題が一挙に顕在化します。それは慢性の病気が急に悪くなった状態に似ています。解熱剤で発熱を抑えるなどして一時的に楽になったとしても、もとの病気を治さなければ再発します」

 「顕在化した問題は氷山の一角です。本当の原因は、その前から抱えていた制度的な欠陥・問題で、そちらの方がずっと重要ですが、十分に議論されていません。メディアの注目も足りません」

「社会は変わってきた。だからあきらめない」

今月5日には衆議院の原子力問題調査特別委員会に、同委員会アドバイザリー・ボード(会長=黒川清・元国会事故調委員長)のメンバーとして呼ばれました。国会の取り組みはいかがですか。

「17年にボードができてから4回出向きました。国会事故調があったことさえ知らない国会議員がたくさんいて衝撃を受けました」

 「事故調はたかだか半年活動しただけで、手を着けられなかった問題がたくさんあります。なので国民の代表である国会で調査や議論を継続するよう提言したのですが、ほとんど実現していません」

「未解明部分の原因究明や、原子力をめぐる組織的・制度的問題の解決など、大がかりな取り組みになるので、実施計画を作って進み具合を国民に公表することや専門家による独立調査委員会を活用することといった具体策も挙げてあるのですが……」

 「この間、米国の連邦議会は専門家に依頼し、福島第一原発事故について2年間かけた調査を2回実施しています」

 ➖国会を含め日本社会はなぜ変わらないのか?

「変えるより変えない方が楽で合理的だからです。国会議員にとっては有権者の支持を集めることが重要です。『どうすればいいだろう』と議論で悶々(もんもん)としている姿より、見栄えよく誰かを非難している様子が報道された方が票につながると思うから、変わらないのです。そういう有権者、商業メディアだからです」

「何もせずに国会が悪い、政治が悪いと言っていても、何も変わりません。昨日と同じような行動を選択するから、昨日と同じような日がまた一日延びるのです。社会は与えられるものではなく、『私』が『今』創るものです。自分を変えることは一番簡単です。国会議員も自分の周囲の有権者がどう考えているかを見ています。『変えることが合理的なんだ』と思えば、必ず変わります」

「世界史の教科書を開くと、この一行の中に何人が押しつぶされる思いをしただろうと考えます。でも、社会は変わってきました。だから、あきらめません」

 興味のある方は是非記事をお読み下さい。また、関連団体『わかりやすいプロジェクト』https://www.naiic.netから報告書についての資料も公表されているので、そちらも参照されたい。

 

東電福島事故レポート (1)

本ブログにとっても東電福島原子力発電所事故は避けて通れない課題であるが、まずはこの記事を手始めに、民間や政府から出ている代表的な幾つかの報告書について、その資料本文と可能であれば関連コメントを順にアップして行きたい。そして未だ結論が出ていない(コンセンサスが出来ていない)、事故はなぜ起こったのか、また今後どうすべきかについて、特に若い研究者がじっくりと研究・考察するのに有用な基礎資料を提供して行きたいと考えている。第1弾は、民間事故調査委員会の一つであるFUKUSHIMAプロジェクト委員会によるFUKUSHIMAレポート(第1章)である。

FUKUSHIMAレポート はじめに、目次

FUKUSHIMAレポート 第1章

今回の公開にあたり筆者より小文を頂いているので、ここに掲載します。

WEB公開に当たって

ここに掲げた「東電福島第一原発事故調査報告書」は、2012年1月に出版した 『FUKUSHIMAレポート──原発事故の本質』  の第1章を再掲したものです。

2011年3月に福島第一原発事故が起きたとき、「事故原因をきちんと調べ上げ、どこに責任の所在があるかを明らかにすることは、日本に住む一人ひとりが地球人の一員として誇りをもってこれからも生きるために不可欠なことだ」と思いました。そこで、私たちは2011年4月に中立の立場で事故調査委員会「FUKUSHIMAプロジェクト」を立ち上げ、8人のチームで8か月間この事故の本質は何なのかについて調べ上げました。またいかなる団体からも独立して調査レポートを出版するために、出版のための寄付金を募りました。その結果、300人以上の方々から300万円を超える寄付金をいただき、500ページを超える調査レポートを1000円に満たない価格で出版することができました 。

この調査レポートでは、私は「なぜこんなことになってしまったのか」の直接的原因の分析をしました。判明した原因とは、「技術自体」ではなく「独占企業による技術経営の誤謬」です。全交流電源喪失になっても原子炉を冷やせる「最後の砦」が原子炉には設置されていて、これはきちんと動いた。したがってそれが動いている間に海水注入をしていれば、原子炉が暴走することはなかった。ところが東電の経営者は、その海水注入を拒みつづけた。これが事故の直接的原因です。

このweb版をお読みになった方々からも、ご忌憚のないご意見・ご批判を頂戴できれば、うれしく思います。

京都大学大学院教授 山口栄一
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