ここではまず新聞記事を3つ見ておく。
ヨウ素剤の配布指針改正 規制委員会、子供や妊婦優先
(新聞記事1)2019/7/4日本経済新聞聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46921700T00C19A7CR8000
- 原子力規制委員会は3日の定例会合で、原発事故の際に甲状腺被曝を防ぐ安定ヨウ素剤の事前配布について、原子力災害対策指針と配布マニュアルの改正案を正式決定した。5月の会合で了承済み(改正案がまとまり)、意見公募を行っていた。
- 現在は原発の半径5キロ圏の全住民を中心に自治体が事前配布。対象者を原則40歳未満とし、服用は被曝の影響が懸念される子供や妊婦らを優先すべきだとした。
- 40歳以上でも妊婦や授乳中の女性も事前配布対象とする。住民の不安に配慮し、供給量が十分なら希望者にも配布しても良いとした。
- 配布方法は、従来は医師立ち会いの説明会で受け取る必要があったが、改正後は、説明会に参加できなくても薬局で受け取ることもできるようになる。
- この改正にあたり、世界保健機関(WHO)2017年指針;40歳以上への投与は「有益性が低くなる」としていることも参考にしている。
安定ヨウ素剤 5キロ圏配布開始 県、40歳未満と希望者
(新聞記事2)茨城新聞クロスアイ
https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15631156265628
- (茨城)県は14日、東海第2原発(東海村白方)の過酷事故に備えた安定ヨウ素剤の今年度の事前配布会を始めた。国の指針改正に伴い、原則40歳未満。
- 40歳以上でも妊婦や授乳婦、配布日時点で妊娠希望のある女性のほか受け取りを希望する全住民にも配布。
- また、5キロ圏内の住民で、▽昨年度の配布会に不参加▽昨年12月以降に転入・出生▽安定ヨウ素剤内服ゼリーの更新が必要、に該当する希望者にも配布。
- 本年度の対象者は約3万4千人。8月末までに計7回開催。東海村で7/14、8/3, 22, 31日の4日間、日立市で 7/24, 8/4, 25日の3日間。来年1、2月に追加配布会開催。
東海第2 再稼働反対60.8% 世論調査 県民、依然慎重
(新聞記事3)茨城新聞クロスアイ
https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15638847967040
- 県内有権者を対象にした世論調査(RDDで1009/1269)ー再稼働に「反対」60.8 %、「賛成」22.7 %、「わからない・無回答」16.5 %。再稼働に関する理解は広がっていない。
- 東日本大震災後に実施した過去の調査:2012年衆院選から国政選挙に合わせて実施。「反対」の推移;63.5 %(2012年)、59.5 %(13)、57.6 %(14)、55.0 %(16)、64.4 %(17)。いずれも5割を上回る。
- 男女別:反対;女性の62.3 %、男性の59.4 %。賛成;女性の18.0 %、男性の27.5 %。
- 支持政党別:反対;立件民主支持者の82.1 %。社民91.2 %、自民(新規制基準に適合した原発の再稼働を容認)57.3 %、維新63.8 %、公明62.5 %、国民民主57.0 %、共産51.0 %、無党派層56.9 %(賛成17.4 %)。
- 東海第2原発は昨年11月、原子力規制委員会の新規制基準審査合格や運転延長許可を得て、38年まで最長20年の運転延長が認められた。原電は今年2月、再稼働を目指す考えを表明し、審査に基づく安全対策工事の21年3月までの完了を予定している。
- 半径30キロ圏内の人口は全国の原発で最多の94万人。30キロ圏内の自治体(14)は避難計画の策定が義務付けられているが、策定済みは笠間、常陸太田、常陸大宮の3市のみと難航している。原電は18年3月、東海村のほか周辺5市にも「実質的な事前了解権」を認める全国初の協定を締結し、再稼働に向けた地元同意のハードルは高くなっている。
次にヨウ素剤と配布圏について確認しておく(用語解説1-3)
安定ヨウ素剤(放射線障害予防薬として)(1)
(用語解説1)https://ja.wikipedia.org/wiki/ヨウ素剤
- 概要
放射性でない安定ヨウ素を甲状腺に取り込んでおくことにより、放射性ヨウ素を甲状腺に蓄積されにくくし、被曝によって発生する小児甲状腺がんを減らす効果が期待できる。18歳未満の者に対し特に効果があるが、40歳以上には有為な効果が期待できない。ヨウ素以外の放射性物質に対しては効果が無く、ヨウ素を飲んだからと言って防護や除染を怠ってはいけない。
- ヨウ素の種類:
安定ヨウ素127(127I) 自然界でほぼ100 %。放射性ヨウ素131(131I) 半減期は8.1日。β崩壊することで内部被曝。
- 甲状腺とヨウ素:
動物の甲状腺は甲状腺ホルモンを合成する際に原料としてヨウ素を蓄積する。原子力災害等により放射性ヨウ素を吸入した場合には、気管支や肺または咽頭部を経て消化管から体内に吸収され、24時間以内にその10-30 %程度が有機化された形で甲状腺に蓄積される。
それゆえ「安定ヨウ素剤」を予防的に内服して甲状腺内のヨウ素を安定同位体で満たしておくと、以後のヨウ素の取り組みが阻害されることで放射線障害の予防が可能になる。
この効果は服用から1日程度持続し、後から取り込まれた「過剰な」ヨウ素は速やかに尿中に排泄される。放射性ヨウ素の吸入後でも8時間以内なら約40 %、24時間以内なら7 %程度の取り込み阻害効果が認められるとされる。
安定ヨウ素剤(放射線障害予防薬として)(2)
(用語解説2)https://ja.wikipedia.org/wiki/ヨウ素剤
ヨウ素剤の事前配布
原子力災害の発生後では、現場の混乱やインフラの寸断によってヨウ素剤の配布が困難であったり、優先的に飲ませるべき者、飲んだ方が良い者、飲む必要のない者、飲んではいけない者を医師等専門家の知見に基づいて判断することも困難となる事態が予想される。
また、ヨウ素剤の性質(遅いよりは早い方が良い)に鑑みて、事前に配布がなされるべきであることは自明。事実原子力発電所を稼働させている諸国において、近隣住民へのヨウ素剤配布が行われてきた。
東日本大震災当時は?
ヨウ素剤は病院や市役所等に都市の夜間人口に対応できるだけの個数が用意されたが、大部分が使われることがなかった。
この教訓により、国(原子力規制委員会)が2013(平成25)年6月に原子力災害対策指針を改正し、PAZ(原発から概ね5キロメートル以内の地域)の住民に安定ヨウ素剤を事前配布することとした。これを受けて、原発のある道府県では対象となる住民への安定ヨウ素剤配布が始まった。
これにより、災害発生時に交通が麻痺していても、手元にあるヨウ素剤を服用できるようになった。ただし、服用は国・自治体からの指示を待つこととなっており、情報伝達・受信手段の確保は必須である。なお、日本国内でもサプリメントとしての購入は可能。
5キロ圏内、30キロ圏内
(用語解説3)
原子力災害対策指針(の概要)の中に、発電用原子炉施設の原子力災害対策重点区域が決められている。
原子力災害対策重点区域:原子力災害の及ぶ可能性のある区域をあらかじめ定め、重点的に防護措置を実施する。
【予防的防護措置を準備する区域】
PAZ (Precautionary Action Zone):原子力施設からおおむね半径5 km(目安)
=急速に進展する事故においても放射線被曝による重篤な確定的影響を回避し又は最小化するため、EAL(*1)に応じて即時避難を実施する等、放射性物質が放出される前の段階から予防的に防護措置を準備する区域
【緊急防護措置を準備する区域】
UPZ (Urgent Protective Action Planning Zone):原子力施設からおおむね半径30km(目安)
=確率的影響のリスクを低減するため、EAL、OIL(*2)に基づき、緊急防護措置を準備する区域
*1, 2 いずれも防護措置実行の意思決定の枠組みの略語でそれぞれ放射性物質放出前、放出後の意思決定過程に対応。
EAL(Emergency Action Level): 緊急時活動レベル、施設の状態に基づき緊急事態区分を決定し予防的防護措置を実行。
OIL(Operational Intervention Level): 運用上の介入レベル、観測可能な指標に基づき緊急防護措置等を実行。
本記事の作成にあたり参照した原子力規制庁の資料(既に公開されている)をここに2つ貼り付けておく。必要なときにダウンロードして下さい。