今回から何回かに分けて、最近議論になっている「トリチウム水」問題について、幾つかの資料を参考にして作成した要約(学習資料)をアップしていきます。一般の方々が家族や友人と議論を始めるきっかけになれば、と思っています。全体の予定目次は今のところ次のような内容とするつもりです。
- トリチウム、及び「トリチウム水」とは?
- 「トリチウム水」の中身
- 多核種汚染の影響
- トリチウム自体の健康影響
- 海流に乗るトリチウム汚染水
- 福島第一原発汚染水の現状
第1回目は、本質的かつ最も重要なな問題である、トリチウム自体が及ぼす健康影響、をまず扱ってみたいと思います(参考文献:「DNAに取り込まれるトリチウムとその健康影響」河田昌東DAYS JAPAN 2018年11月号)。
1) トリチウムの特異性
「トリチウム水」安全性の根拠(とされる主張):
- β(ベータ)線エネルギーが極めて小さい(紙一枚でも遮ることができる)
- (体内に入っても)普通の水と交換して短期間で体外に出て行く
これらは大きな誤りを含む。なぜなら、体内に入ったトリチウムは生物学的変化をする!すなわち、体内の有機物に取り込まれたトリチウムは有機結合性トリチウム(OBT, Organic Bound Tritium)となり、体内に長く留まる。そしてDNAに取り込まれる。
*DNA: 4種類の糖塩基(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシシチジン)で出来ており、これらの糖塩基にはたくさんの水素が付いている。
2)有機結合性トリチウム(OBT)の性質
*トリチウム水は(普通の水と同様)口、呼吸、皮膚を通じて体内に入り、細胞の中で様々な合成・代謝反応に関与し、水素と同様にタンパク質や遺伝子DNAの構成成分になる。
*体内の有機物に取り込まれた 有機結合性トリチウム(OBT)は、その分子が分解されるまで細胞内に長期間留まり(DNAの一部になったOBTの体内残留期間は15年以上;放射線生物学者ロザリン・パーテルによる)、
a) β線を出し続けて内部被曝をもたらす
b) 放射線被曝とは全く異なる仕組みでDNAをも破壊(以下そのメカニズム)
トリチウム→(β崩壊)→ヘリウム(極めて安定)
⇨トリチウムとDNAとの結合が切れる
=トリチウムと結合していたDNAを構成していた炭素や酸素、リンなどが
不安定になる⇨DNAの破壊!
3)トリチウム汚染の健康影響例(1)
*人間リンパ球の培養実験
DNAの構成要素の一つチミジンの水素をトリチウムで置き換えると、トリチウム濃度が37 Bq/mlくらいから染色体異常が始まり、190,000 Bq/mlでは100 %の染色体が破壊される。
*長期間のトリチウム投与実験
雌のリスザルに妊娠から出産までトリチウム水を飲ませると、生まれた子供の雌の卵巣には卵細胞が殆ど無かった(米国カリフォルニア ローレンスリバモア国立核研究所による長期間投与実験)
参考:福島第一原発のトリチウム汚染水の排出基準:60,000 Bq/l =60 Bq/ml
4)トリチウム汚染の健康影響例(2)-1
*現場被害1
(イギリスブリストル海峡セヴァーン川河口、ヒンクリーポイント、バークレイオルドベリ両原発とニコムドアマーシャム放射化学実験所からの排水が下水道を通じて流入)
この廃水にはトリチウムが多く含まれる他様々な有機物が含まれていた。この海水のトリチウム濃度は10 Bq/mlであったが、海底の表層土壌には600 Bq/g、海藻(ヒバマタ)には2,000 Bq/g、ムール貝には10,000 Bq/g(いずれも乾燥重量当り)のトリチウムが含まれ、その殆どは有機結合性トリチウムであった(2001年論文)。
5)トリチウム汚染の健康影響例(2)-2
*現場被害2
(カナダ オンタリオ湖周辺、カナダ特有の重水型原子炉8基がある。冷却材に重水を使うため原子炉内で大量にトリチウムが発生、大気とオンタリオ湖に廃棄されている)
周辺地域では出産以上や流死産、新生児のダウン症候群、心臓疾患や中枢神経の異常も増加(1978−85年、カナダの環境団体、シエラクラブカナダが論文で報告)。
*新生児に影響が大きい理由は、トリチウム水が母親の胎盤を透過して胎児のDNAに入り込み、盛んに分裂しつつある胎児のDNAを破壊するから。